ブロックチェーンと教育の未来

今月、3月7日〜10日にかけて、テキサス州オースティンで開催される年に一度の教育とテクノロジーの祭典、 SXSWeduに参加してきました。そこは一般的な教育コンファレンスの概念をまさに超えるといっても過言でない程、先進的なコンファレンスでした。毎日15分〜30分刻みで、異なる会場で数多くのプレゼンやパネルディスカッション、講演や新商品実演が同時並行で行われます。モバイルのアプリケーションで参加者各自が関心のあるテーマに沿って主体的に参加ができるような形を取り、毎年世界中の研究者、学校教育者、Edtech、教育企業関係者、Venture capitalistが揃って参加します。この場で業界関係者が集ってネットワーキングを広げる絶好のチャンスでもあり、毎晩Happy hourや立食パーティーなどソーシャライズするための場も企画されていました。

SXSWeduの会場内の数々のセッションの中で主な教育トレンドとして、「Project based learning(プロジェクトベースとした学習)」、「Personalized Learning(個別最適化学習)」、「21st century skill(21世紀型スキル)」、「Design thinking(デザイン思考)」といったトピックをテーマとしたセッションが目立っていたように思います。個人的には、Virtual Realityをクラスルーム内で使い海外の学生と接続し、異文化理解を体感して学ぶGlobal Exchange Programを斬新な形で提供している教育NPO, Global Nomads Groupなども印象的でしたが、それはまた別の機会に取り上げたいと思います。

さて、本題に移りますが、今回参加したSXSWeduの中で教育の未来を考える上で最も印象的だったセッションが、Jane Mcgonigal氏による基調講演でした。テーマは、’How to think and learn like a futurist’ (フューチャリストとしての思考法と学習法)という興味深いタイトルでした。Jane氏はGame DesignerでありながらFuturistとしても活動しており、日本語にも翻訳されている、幸せな未来は「ゲーム」が創るスーパーベターになろうをこれまでに出版しています。

基調講演はSXSWedu内の最も大きい会場で開催され、Jane氏の陽気で活発な雰囲気の中、刺激的で内容盛りだくさんのあっという間に過ぎた1時間の構成でした。全体の内容としては、まずJane氏より未来を予測するための重要なテクニックのステップ( 1. 未来からのシグナルを集め、2. それらを組み立て、3. 予測を立て 4. 未来について膨大な数の他者たちと遊ぶ、というユニークな4つのステップ)が伝授され、次にその4つのステップを応用し10年以内に最も変化するであろう教育の未来のシナリオを会場で実際に予測していく、というものでした。

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そこでのシナリオは、ビットコインで用いられているブロックチェーン技術を教育に活かした10年後の未来の教育が紹介されました。

私はエンジニアリングの分野に精通していないので詳細な説明はできませんが、ビットコインとは、要約すると、ネットワーク上での電子取引を行う仮想通貨で、中央機関存在なしで、通貨の発行や取引はすべて第三者機関同士のピアツーピア・ネットワーク上で行われています。そしてビットコインのすべての取引履歴はブロックチェーンと呼ばれる「台帳」に記録されます。そこで行われる取引履歴は全て暗号化されセキュリティが守られた環境下となります。Jane氏も、ビットコインについて’The first decentralized digital currency’(最初の非中央集権的デジタル通貨)と述べていました。

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はい、それでは、このブロックチェーン技術が教育に応用されて10年後の未来はどうなるんだろう?という疑問について、Jane氏が実際に予測を立てた未来を紹介していきたいと思います。これらは前述にあったJane氏独自の4つの未来予測ステップに則ったものになります。

まず最初のステップである、1. シグナルを集める ですがJane氏は下記のようにブロックチェーンがもたらす教育への変化を現在のシグナルとして捉えていると述べました。

  • 現在、正式な教育機関で取得できる学位がもっとオープンになった ledger, 「台帳」となるのでは?そうなった場合、従来の「卒業」というコンセプトはなくなるのではないか?
  • 学習体験が通貨のように扱われるのでは?そうなった場合、学習機会や資格を交換し合うためどのような新しい取引を創りだされるのだろう?
  • 完全に教育に対して支払う概念を新たに発案できるのではないか?学ぶことにより所得が得られるということもあり得るのではないだろうか?

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次に、2. シグナルを組み立てる、作業に移ります。そこで現在すでに見えてきているシグナルと重ね合わせ、より教育の未来のイメージに近づいていきます。現在すでに見えてきているシグナルは下記のように述べています。

  • 現在の高等教育を受ける生徒のほとんどは、’Working learners(働きながら学生をする人)’ : 80%の大学(単科大学)学生は仕事についており、40%の学部生はフルタイムで働いている
  • 会社のCEOs(社長)は従業員に週に5〜10時間のオンライン学習を期待している
  • 若者たち(そして倹約家な人たち)は従来の大学教育の存在についてROI(費用対効果)に疑問を持ち始めている
  • Credential-based (資格や学びの証をベースとした)教育のポジション上昇

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そして、いよいよ 3.予測を立てる ステップに移ります。そこでJane氏が予測する未来についてのポイントは下記になります。

  • 学習は、伝統的な教育機関の縛りから解き放たれるだろう。
  • 学習は学校内、学校外、企業内やオンライン学習経験が全てシームレスなネットワークとしてまとめられるライフスタイルとなっていく。
  • 労働と学習はもはや人為的に切り離せなくなる
  • 雇用者はより教育の世界の中でより影響力を持ち責任が大きくなる
  • 教育に対して支払う方法が豊富になる(または報酬として得る方法も)
  • 学習記録を検証していく新たな方法が発明されるであろう
  • “Just-in-time” skill(学習がよりビジネスや産業とつながり実社会に適用していくskill)により注目が集まっていくだろう

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まとめると、学習はより、アクセスしやすくなり、経済的に安価となっていき、より実社会とのつながり、キャリア(お金を稼いでいく)へ直結していく世の中になるのではないか、ということです。

そしてさらにその予測をバーチャルの世界で仮定し具現化していきます。

学習の積み重ねの台帳となる”Edublock”と”Learning is earning”の教育の未来の世界です。以下の動画に全てその世界が紹介されています。ここでのアイディアを私なりの視点で要約すると、従来の学位の代わりとして、オープンなLedger(台帳)が重視される世の中になっていきます。ここで使われるのがEdublockというバッジで獲得したskillを積み重ねていきます。どこの大学を卒業したか、資格を取ったか、という結果よりも、何を継続的に学んでいき、あなた自身何を強みとしているのか、というプロセスが重視されていきます。個人の学習履歴がEdublockに積み重なり、誰もが生徒となり先生となり、かつ学校などの場所にとらわれず学びとその証を記録することができる世界です。学習にコミットするにつれ、Edublockが貯まっていき、より仕事の世界でもフェアな評価につながる、お金を稼いでいくことに直結するというコンセプトです。

 

そこで、最後の15分間はJane氏自らこの基調講演のためだけに用意したWebsiteの未来予測ゲームに参加者がTwitterとWebsiteを通しこのEdublockによる2026年の教育の未来について意見を投げ参加できるバーチャル意見交換セッションのゲームで締めくくりました。

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このEdublockによる教育の未来については、あらゆる角度から一般の参加者から意見が投げられており、見ているだけでも興味深いです。ポジティブな意見から、懐疑的だという意見、誰かがこの仕組みを悪用するのでは、などというネガティブな意見や一歩進んで、自分たちのJob title(肩書き)はどうなっていくんだろう?など多岐に渡っています。

下記がそれらの意見をわかりやすくグラフ化したものになっています。(詳しく見たい方はご参照ください。)http://www.learningisearning2026.org/graph

最後に、Jane氏の1時間にわたるこの未来予測体験はとてもリズミカルで、没入感あって教育の未来について想像力膨らませて考えることができ、参加した身としてはとても楽しめて有意義な経験でした。最後のEdublockの未来についてみんなで意見を投げてゲームをしましょう、という展開には圧巻されました。他の参加者がどういった反応をしているのかがリアルタイムで分かりエキサイティングな体験でした。

Jane氏が予測したブロックチェーンがトレンドとなる2026年の教育の未来について、本当にそんな世界になっているのだろうか?と考えると、個人的にはやはり権威のある大学はこれからも存続していくことに変わりはないとも思います。逆に大学機関はこれらのトレンドに合わせて変わっていくだろうし先進的な大学機関(MIT東京大学など)は既に授業をオンラインコースとしてオープンに開いたりと変革の試みを展開しています。しかし、一部のグローバル企業などでは既に学歴を重視せず、個人が何をテーマに学び続けてきたか、ということを重視して採用する会社なども増えてきていると聞きます。情熱を傾け学び続けてきた人が正当に評価される世の中になる、ということに関しては素晴らしいと思います。Learning is earning 2026のサイトの中に、「個人のニーズに合わせて学習分野を選ぶのを助けるコーチやカウンセラーが必要になってくる」と意見を言っている人もいました。より個人が自分の内から湧き出る関心や情熱に沿って継続的に学び、自身の高みを追求していくことで正当に仕事で評価されることが可能な世の中になったとしたら、今まで人類が経験してこなかった、組織体系にとらわれずに個人の情熱とするものを生き生きと働きながら学習し続け、各々の個性を尊重し合あえる世の中になっていくのかもしれません。まだまだ実現の道のりは長いのかもしれませんが、そう遠くはない未来だと個人的には思います。

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ブロックチェーンの教育への応用は、既にテクノロジー企業であるソニーが進出している分野でもあります。先月発表されたプレスリリース内では、「誰もが簡単に教育を受けられるように、誰もが競い合い、学び合えるように、従来のアプリケーションやサービスの枠組みを超えたグローバル仕様の教育サービスを提供して、新たなインフラを創造すること」とあります。ブロックチェーンが未来の社会インフラに大きな影響を及ぼす重要技術と捉えており、今回開発した技術によるアプリケーションプログラムを、まず2017年中に「世界算数(Global Math Challenge)」をはじめとしたソニーグローバルエデュケーションのサービスに適用し、新たな教育インフラを創り上げていく、とのことです。

新たな教育インフラを創り上げていく、2026年のブロックチェーンがもたらす教育の未来が現実になっていく動きはすでに始まっています。

 

 

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ブロックチェーンと教育の未来」への3件のフィードバック

  1. 石川禅

    とても興味深い内容を共有頂き、感謝致します。SXSWに一度は参加してみたいと考えている自分でしたが、学びの履歴が台帳になる、誰もがコーチになりメンターになる、資格は記録でしかなく、常に学び続けていくことが求められる等、まさにこれからの教育の姿として全く同じイメージをもっていましたが、このようにプレゼンされると、とても共感が湧きます。これからも是非いろいろそちらの情報を教えて頂ければ嬉しいです

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    1. 石川様、コメントをいただきありがとうございます。このようにおっしゃっていただき、私の方も大変励まされました!はい、これからの教育が誰にとっても平等で情熱を持ったことを純粋に追求することが許され成長し続けられる社会になったらいいなと思っています。じつはすでにこちらのスキルアップ系コンファレンスでは、この「台帳」が有料で付与されるような仕組みも使われていたりします!今後このような生の情報を伝えられるようにしていきたいと思います!今後ともなにか石川様の分野でアドバイスなどいただきたく情報交換させていただけたら幸いです。よろしくお願いします。

      いいね

  2. ピンバック: 全米最大教育テクノロジーコンファレンスISTE – アメリカ先生たちの力強い草の根活動 – – 21st century 教育のかたち

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