Most Likely To Succeedを観て

Most Likely To Succeed  21世紀の学校教育のあり方を問う映画

先日、サンフランシスコベイエリアで開催された、先進教育に携わる教育者向けのワークショップに参加してきました。

そこでは、”Most Likely To Succeed“というアメリカ教育ドキュメンタリー映画を観たのち、参加者それぞれのリフレクションを行い、自分たちがアクションとして何ができるのかディスカッションをしてきました。アメリカの教育者がみんなどう考えているのか、よく分かり私に取っても大変有意義な会でした

Most Likely To Succeed“は、一般上映はされていなく各地域コミュニティによる自主的な上映会のみ限定して公開される映画です。各著名教育者からも高く評価され2015年は様々な賞を獲得していて全米教育界の中で大きな影響を残しました。

従来型の暗記中心、テスト漬けで集団型マス教育から脱却し、21世紀のいまは、「構成主義(Constructivism ピアジェによる)」具体的な教えを強制しない学習理論が見直されています。(詳細についてはWikipediaがでています。)

構成主義はほとんどの場合、子供中心、オープン・エンド、プロジェクトベース、問題ベースといったものの教え方のモデルに関連付けられています。学習者を注目の中心に置いた指導法といえます。

この「構成主義」を取り入れた21世紀型の先進的な学校がアメリカでは増えてきています。(具体的な先進的な学校例についてはAltschoolなども代表例となります。こちら以前の記事でアップしてます。Altschool 未来形の学校となるか

この映画のすごいところは、そんな”先進的な”学校に取材をし続け、そこに通う生徒や保護者のリアルな心情を描いているところにあると思いました。

正直なところ構成主義の教育で子供は伸び伸び学べるかもしれないが、実際のところは保護者はテストから離れたことによる大学入試に直結しないことへの不安やジレンマを抱えていることを様々な角度から描写しています。

既存の教育システムから脱却し、21世紀型教育、伸び伸びと生徒中心の学習スタイルを進める構成主義の教育方針が次世代の教育の姿だ、と言われてきたものの、やはり既存の教育システムから完全に抜け切ることができない、といった現在のアメリカの教育が抱えるリアルなジレンマを描いています。

アメリカ教育の中でも、まだまだ正解は解明されていなく、アメリカの選ばれた環境にいる生徒や保護者、教育者でさえも、まだ手探りを続けているのだということが再認識できました。

下記、ざっとドキュメンタリーのあらすじをダイジェストで書きます。ポイントとしては下記の内容になります。

  • 100年以上変わっていない20世紀の知識習得偏重の教育から脱却せねば
  • 構成主義取り入れた学生主体のプロジェクトベースの21世紀型の授業スタイルを導入してこう
  • 大学は名のあるところに進学するため、やはり既存の大学入試システムに則った学力つけて欲しい

⇨ 結局のところ21世紀型の新しい教育方針を取り入れた所で完全に既存の教育システムから脱却ができないジレンマ

100年以上変わっていない20世紀の知識習得偏重の教育から脱却せねば

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”アメリカの教育システムは、100年以上前に創られたものなのに、今になっても誰もがそれを、学校のあるべき姿だ、というメンタルでいる。”

21世紀の未来を生きる子供たちに、100年前の教育システムを導入したままで、どうやって、将来の経済のイノベーションへ貢献する人材へと育てていけるのだろうか、という矛盾を指摘。

長い間、教育の最大のフォーカスは、知識習得に当てられていた。そしてそれは先生からの教えが唯一の習得方法と思われていた。

これに対して、ハーバード大学イノベーションラボの Tony Wagner氏は、下記のようにコメント。

”今の時代にこんな教育は必要ない。なぜなら、今日では学習コンテンツはユビキタスになり無料でインターネットがつながるデバイスさえあれば誰でもどこからでも知識を得られるようになっているからだ。”

学校で先生から教えられること以外にも様々な情報を習得できる現代の環境(MOOCsやオンライン学習など)で、100年前の学校のシステムのまま、先生の教えのみ聞いていては未来の産業を作っていく人材は絶対の育つわけない、という論点から入っています。

構成主義取り入れた学生主体のプロジェクトベースの21世紀型の授業スタイルを導入してこう

そんな時代遅れの既存の教育システムの脱却案として、構成主義の考えが台頭する。構成主義とは子供中心で、先生の教えは極力抑え、自ら考えさせるプロジェクトベースの授業スタイル。

その方針を全米で先駆けとして導入した、カリフォルニア州サンディエゴにある High Tech High schoolの密着取材が行われる。

この学校は、Qualcomm社のCEOの寄付を中心によって2007年に設立され、教科横断プロジェクトベース型、クリエイティブな問題解決ができる人材育成を主な方針とする。

特にこの学校の感心する点は、

  • 各先生が全ての授業の方針を決め自由にカリキュラムを組めること(テスト実施しなくても良い)
  • テストの代わりにアートの視点や数学的な思考、歴史理解力など総合的に考えさせる生徒同士コラボレーションをしプロジェクトを動かし、生徒たち自身によるプレゼンテーションを評価軸

このようなテストと直結していない授業スタイルをとりつつも、今までに卒業生の98%が大学進学の実績を出し、革新的な教育を実施していても既存の大学入試の学力レベルまで引っ張ってこれている、ということが証明されています。

High Tech High Schoolでは、未来を生き抜く子供たちのために、クリエイティビティとイノベーティブさを身につけるよう様々な工夫がされ、

特にMarkという人文学を専門としたHigh Tech Highの先生は、授業中に生徒に向け、「君たちは手を挙げる癖をつけないといけない」と語りかけ、ソクラテス式の授業を実践。

「他の生徒と互いに話す必要があるのであって、私をいないものとしなさい。自分たちで問題を認識して、考えるのです。いつまでも黒板にいる先生のことばかりみて答えを求める癖を直しなさい」と生徒たちに語りかけます。

大学は名のあるところに進学するため、やはり既存の大学入試システムに則った学力つけて欲しい

このように革新的なHigh Tech Highの教育について評価が高まるにつれ、反対意見も出てきています。

保護者の懸念として、先生の教えは最少限にした中で、テストも行われず、本当にこれで本当に大学入学に必要な学力は身につくのだろうか?特に数学のスキルは大丈夫なのだろうか?

High Tech Highに通う娘をもつ教育熱心な父親Gregの考えとしては、結局のところ、革新的な教育を試みてはいたが、もっとテストをさせ、長い登校日を設けるべきなのではと最近になって巡り巡って考え始めたということです。また、同じように子供を持つ親たちにもGregのように考え続けるJourneyを体験してほしいという願っているとのことです。

子供の未来を気にかけるからこそ悩む保護者たち。そんな彼らのリアルな心情が伝わってきました。

“Most likely to succeed”では、最後にオーディエンスに、このように人間である自分たちが創り上げた教育について現在招いているジレンマ、問題点について考えさせ、最後にこう問いかけます。

”あなたの子供にどんな人になってもらいたいですか?”

アメリカでは教育者、保護者、生徒たちにとって正解の形はまだ分からず、様々な考えを基とした革新的なアプローチが教育現場で展開されて手探りで新しい教育のかたりを模索している状況なのだということがよく分かりました。

映画を観て リフレクション(筆者個人)

上映後は、隣に座っていた、アフタースクールでMaker教育のカリキュラムを作成している若い教育者の女性とお互いの感想をシェアし合いました。

まさに構成主義の教育アプローチを学校が終わった放課後の外の場で推進する彼女ですが、Makingが大学入試に直結するわけではないので、懸念を示すような保護者には、きちんと子供が学んでいる進捗を報告している、など工夫をしているということです。

彼女が現代のアメリカ教育について、指摘していたポイントは、現場で生徒とまさに向き合っているからこそでてくるようなもので、非常に興味深かったです。

  • 子供たちに学ぶ意味、モチベーションを持たせることが最も重要。
  • プロジェクトベースの授業は流行ってきているが、子供たちもお遊び感が出てしまっているから、なぜこのプロジェクトをするのか、何の目的なのかとしっかり理解させるべき。
  • 実際に子供たちに失敗をさせ、そこからまなび再度組み立てるような授業を誘導させてあげるべき

私自身としても、まさに彼女と同感であり、特に自分が何を学びたいかどうして学びたいかと動機付けを導いてあげることが重要だと話が盛り上がりました。

下記の写真は、全くもって分かりづらいと思いますが、私たちがペアとなり、”どんな教育ができるだろう?”について考え、デザイン思考のフレームワークを使って、私たちなりの教育のあるべき姿のプロトタイプのイメージを作りました。

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このプロトタイプのテーマとしては、

  • コミュニティの中で貢献する、ということをモチベーションにもち子供たちに学習する動機付けを導いてあげる
  • 社会の中で共生しながら、多様な人とコラボレーションをしながら学び続けて欲しい

とした願いも込められています。

さいごに、 “Most Likely To Succeed”はコミュニティによる上映会のみ限定で公開、ということを記載しましたが、なんと日本でも上映されることを知りました。(字幕は英語だけになりますが、日本語のあらすじが配布されるそうです。)

下記リンクで6/7と6/18に上映会が東京でFuture Edu Tokyoという団体が企画、開催されているとのことです。ご興味ある方はこの機会に是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

http://mltsshibuya.peatix.com/

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VR (Virtual Reality) 教育分野への応用

VRの普及 コンテンツがKey

今年、2016年はVRの発展の年と言われています。

Oculusの発売があり、Playstation VRの発売も予定され、特にゲーム業界にとってはVRゲームの市場が大きく賑わうことが予想されます。自分だけの世界に浸り仮想現実の世界を走り回るのは臨場感あって楽しいに違いありません。

実はゲームなどエンターテイメントの活用以外にも、VR技術が教育、医療分野などへの応用も期待されています。各方面で現在まさにリサーチが展開されていますが、シリコンバレーではアカデミック領域、起業家、ベンチャーが一体となって試行錯誤しながら産業を創っていく動きが活発です。特に、スタートアップ企業がイニシアティブを取り、バーチャルコンテンツ制作のビジネス好機に向け、VR/ARビジネス関係者を集いナレッジ共有やネットワーキングをすることで、業界を活性化させていくムーブメントがあります

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先日、このようなスタートアップ界隈が中心となる、San Francisco市内で開催された、VR / AR技術を教育、医療分野への応用を考えるMeet-up event (エキスパートによるパネルディスカッションがメイン)に参加してきました。

今回のMeet-up eventではLifeliqeというVR専門コンテンツメディア会社と、VR業界情報を発信しコミュニティを創っているUpload社が主催してました。特にLifeliqeは教育に焦点をあててVirtualコンテンツを制作をしています。

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イベントに登壇するパネラーは、教育アクセルレーター関係者他、スタンフォード大学のDr. や医療界、教育界でVirtual Realityの体験デザイン分野のエキスパート、なかにはアップル社でスティーブ・ジョブスのアドバイザーを務め、長年Edtechスタートアップ企業やインキュベーターに新しいLearning体験について顧問を担当している大物(マイケル・カーター氏)も参加していました。

全体的には、具体的にどうビジネスを展開するか、という話の段階にはまだ発展はされておらず、VR/ARの応用のしかたについて必要になる考え方やコンセプトを、共有していたという印象です。

下記パネルディスカッションで議論されていた内容のポイントをまとめました。

VRを使うメリット:

1. 体験をスケールアップできる 2. バーチャルだからこそ質が上がる体験ができる

VRを活用することにより、どういった効果が見込まれるか?今回のパネラーのやりとりでは大きく2つになると解釈しました。

  1. 体験をスケールアップできる(高価な体験や自動化に置き換えられる体験がもっと広く使われる可能性。)
  2. バーチャルだからこそ質が上がる体験ができる(ノートと文字やモニターの二次元を使った学習だけでは習得できなかったような、3D次元だからこそ習得でき学びの質が上がる可能性)

1.スケールアップについては、

人手が足らない現場の中で、バーチャルに置き換えて広く導入していくこと。医療現場では、特に精神病患者など心理療法に使われたり、教育現場では、地方に住む先生が生徒にNew Yorkの美術館や博物館の展示を生で見せてあげたい、でも経済的や物理的には実現難しい、といった場合、バーチャルであたかもその場にいった経験を生徒たちに提供するなど。

2. バーチャルだからこそ質が上がる体験、としては、

VRを使うからこそできる上質体験。例えば、シミュレーションやリアルには危険すぎて体験できないことをバーチャルで体験し学ぶ、といったこと。具体的には、歴史体験学習(バーチャルにその時代に入り込み、歴史重要人物と実際に話すなどし学びを深める新しい学習体験)や天文学の授業など。また、職業訓練について、危険な現場での作業員を対象とした整備士や外科医の訓練などは、VR技術によって、シュミレートしてから現場での作業をするというステップを踏むということが可能になります。

また、今回パネラーから意見として挙がっていたことに、VRでは、Empathy(共感)を誘い、感情を動かすことが可能になるという点。これがパワフルなツールとなるのでは、という話しも出てました。これについては、以前ブログで投稿したVirtual Global Classroomの中でも紹介していましたが、異文化理解教育を、国内に居ながらにして体験し海外の生徒たちと人と人とのコミュニケーションの感情を伝達し、相互理解を深めることにも応用されるかと思います。または幼稚園〜低学年生徒に対して、しつけや道徳面の教育についても応用ができるのではないか、なども具体例として上がっていました。

テクノロジー導入をゴールではなくツールに使用すること

マイケル・カーター氏(元スティーブジョブス顧問)がパネルディスカッション中に発言をしていた内容ですが、

VRテクノロジーを教育現場に登用することになっても、絶対に先生の職業は無くならないということ。この基本は変わらないと力強くコメントしていたことが印象でした。

先生は世界で最も忙しい職業。テクノロジー会社は現場の先生と話し、「5つ」 何が大変か聞き出すべき。それをテクノロジーで解決することに専念をするべきだということ。

VR/ARはその点で、忙しい先生の時間を節約することが可能になるのか、今まで出来なかった学び体験を深めるよう促せるのか、が肝になるとのこと。

VRによる学習体験のデザインが必要

全体的には、教育現場にVR/ARが導入が普及されるのはまだ先の話しではあるものの、まずは部分的に、VRを使って効果的に学べる学習体験から始めて行く(例えばBody Languageを使ったものなど)、特定の学習分野をVRに置き換えていく、ということから始まっていくことになりそうです。

おそらく始めのフェーズは職業訓練の分野から高等教育分野、そこから小中学校への展開、という流れとなっていきそうです。

またVRを使った学習体験によって、

  • 学習者の誰を対象とするのか
  • それによって本質的に何を学ぶことを目的とするのか

といった学習体験デザインが重要となってくることでしょう。

個人的には、バーチャルだからこそ、今までの二次元での学習体験では習得できなかったような上質な体験ができる、ことについて、どのような新しい学習体験のデザインを、各研究機関、企業が創り出していくのか、今後の動向が楽しみです。

さいごに、先月サンディエゴで行われたASU GSV Summit でのビルゲイツの発表を共有したいと思います。

ビルゲイツの教育慈善財団であるThe Bill and Melinda Gates Foundationのイニシアティブの中でバーチャルリアリティのコンテンツデザインに向け本格的に取り組みを開始しているということを発表しました。

http://livestream.com/asugsvsummit/events/5043691/videos/120348577

難民キャンプや発展途上国でVRを使った学習機会の提供を開始しているとのことを発表しています。特に、この発表のなかで、下記のようにコメントしています。

“Virtual reality can make things more engaging,”(バーチャルリアリティが学習体験をもっと興味をそそるものにするだろう)

“There are lots of places where [VR] will play a practical role and hopefully draw people in.” (VRがもっと効率的な役割を果たし、もっと人々を惹きつけるところがあるだろう)