デザイン思考 教育分野への応用

先生はデザイナー

ここ数年アメリカでは、デザイン思考は教育現場で先生がデザイナーとなって学校の問題解決をしていくツールという文脈で様々な成功事例を創り出し、ナレッジシェアをし合う先生ネットワークができています。

デザイン思考が、ビジネス以外の教育分野でも活用されていることは、まだ日本では一般的にはあまり知られていないかもしれません。

この記事ではデザイン思考が、教育現場にも応用されているアメリカの例をご紹介し、日本でも教育課題解決を形にしていくアイディアのヒントとして、こういうことも出来て、こういうアプローチもある、という視点で以下のような流れでご紹介できたらと思います。

  • デザイン思考の5つのステップ:クリエイティブで失敗を恐れずに前に進んでいくプロセス
  • デザイン思考の失敗を恐れず前に進む (Learning by Doing)特性が生徒主体型教育と親和性あり
  • 教育現場の問題解決ツールとしてのデザイン思考
  • 先生はデザイナー:教育現場の問題大小関わらず解決していく事例紹介

デザイン思考の5つのステップ

デザイン思考は、「人間中心デザイン」に基づいた発想法で、“デザイナーが元々備わっているクリエイティブなアイディアを引き出す発想法”をデザイナーでない人にも身につけられるよう、現在ではデザイン業界以外の分野に広がり、ビジネスの分野で活用されていることをよく聞くようになりました。不可解で難しい問題に直面した状況で、ロジカルな左脳を使った発想ではなく右脳を使ったデザイン思考の観点から発想をすることで、イノベーションを生み出すことにつながると注目され、現在では多くのビジネスマンやビジネススクールでも学習されてます。

火付け役はアメリカのデザインコンサルティングファームのIDEO社です。問題発見から問題解決に到達するまでの5つのステップを、非デザイナーの誰でも思考法が身につくよう体系化しました。それが、Empathy (共感・理解), Define (定義・明確化), Ideate (アイディア開発、創造), Prototype (プロトタイプ), Test (テスト)の5つのステップです。
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「人間中心デザイン」に基づいて、モノではなく、人に着目して考えます。この5つのステップを通し、ユーザーを深く理解し共感し、ユーザーの問題を特定し、解決策を形にしていきます。このステップを何度も繰り返す (Iterate)ことで改善点を生かしさらに良いプロトタイプ(試作品)を作っていきます。常にユーザーの視点に立ち、立ち止まることなくアイディアを形にしていくクリエイティブで失敗を恐れずに前に進んでいくプロセスといえるでしょう。


では、教育現場とはどうのようにつながってくるのでしょう?

デザイン思考の教育現場とのつながり

デザイン思考と構成主義

デザイン思考のコンセプト自体が、生徒主体とする教育法と相性が良いと言われてます。特に、デザイン思考の失敗を恐れず次々とアイディアを形にし実践を繰り返していく過程で学ぶ、“Learning by Doing” の要素が、子どもの教育で自ら考え抜く力を養う教育法(構成主義)に通じるのではという考えです。(構成主義はデューイ、ピアジェらが説いた教育理論で、子供中心、オープン・エンド、プロジェクトベース、先生は具体的な教えを強制せず、学習者を注目の中心に置いた指導法です。)

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生徒たちは必要最低限の知識だけを持ち試行錯誤を繰り返します。正解は先生が出すのを待つのではなく、生徒たちが仮説を持ちながら探っていきます。先生は、生徒たちが一通りもがいて、行き詰まった時にだけ進行を手助けする程度です。

生徒たちは、この濃い学びを通し、アカデミックの内容、批判的思考、問題解決力、他人と協力すること、コミュニケーション、主体的学習、自己肯定感が身につき、Deeper Learning21世紀型の新しい状況に適切に知識を応用していくスキルが身についている学習効果)の状態を生み出せると言われています。

デザイン思考=教育現場の問題解決ツール

また、デザインファームIDEO社は“先生はデザイナー”とし教育現場の問題を解決していくことを次のように推奨して言っています。

“世界の教室、学校は毎日、先生のフィードバックから細かい日常のスケジュールまで様々なチャレンジと向き合っている。どんなスケールの問題でも教育者が直面するチャレンジはリアルで複雑で多様である。だからこそ、教育者は常に新しい観点、ツールやアプローチが必要となってくる。デザイン思考はその中の1つだ。”

教育現場で教育者が問題解決をする際の新しいツールの1つとしてデザイン思考が活用できると唱っています。

デザイン思考の教育現場問題解決事例

では実際にデザイン思考を活用して、教育現場の問題解決をしていく事例を2つご紹介します。学校を創る大型プロジェクトから、教室のレイアウトを変える、など小さなプロジェクトまで問題の大小問わず様々な問題解決が行われていることがわかると思います。

1. デザイン思考で新しい学校創設: Alpha Public School Cindy Avitia High School

シリコンバレーの郊外、East San Joseにチャータースクールの高校Alpha public school Cindy Avitia High School がデザイン思考をベースとし設立されました。

downloadこの地域はSan Jose市の郊外に位置し貧困層やラテンアメリカ系やベトナム系移民が多く人口を占める地域です。

校長先生は、コミュニティの家族たちの問題を解決する学校をつくるため、East San Joseの保護者中心に多様なメンバーのボランティア有志を集め、Alpha Public Schoolの高校を設立するデザインプロジェクトを結束しました。

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Alpha Public School が目指す保護者と先生の連携システム

“どうやったら、East San Joseの大学進学を目指す高校生を増やすことができるだろう?” この保護者が一番懸念してる問いかけをスタートとし、生徒と保護者に80回以上インタビューを実施します。そこでわかったことは、保護者自体が、大学進学について資金面でネガティブな気持ちを持ち、それが子どもにも伝わり子どもも大学進学をあきらめてしまう、という真相が見えてきました。保護者を学校の中に巻き込んでいくことがKeyであるとつきとめます。

そこで解決策を形づくるため、様々な予算などの制約はまずは置いておいて、学会の研究論文や上位校の大学進学プログラムをベンチマークしました。そして、運営資金がほぼゼロのAlpha Public Schoolでは、大学カウンセラーをボランティアで雇い学校に常駐する案がまず出ました。また、East San Joseの保護者たちは、語学や文化の壁があり学校の関係者から情報を仕入れるより、身近で顔見知りの保護者の口コミから情報入手することから、保護者の中からリーダーを選出し、大学カウンセラーがそのリーダーをトレーニングすることにしました。このリーダー達は自分が親しみのある保護者グループをとりまとめ、リードしていきます。

この保護者リーダーを育て保護者コミュニティの中でアンバサダーになっていくCollege promoter parent leadership programを、Alpha public school の中学校で試験的に実施してみました。高校が2015年秋に設立されてからもこのプロトタイプの結果を精査しフィードバックを集めながら改善をし続けています。成果はこれから検証されていくことですが間違いなく保護者のマインドセットはこのプログラムによって変わってきたはずです。

2. 生徒が心地いい教室のデザインを:New York先生のデザインプロジェクト

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Design thinking for educators Websiteより

ニューヨークの2年生の担当マイケル先生は、デザイン思考と出会ってから、生徒達にいままで一度も教室で何が心地いい?と質問したことがないことに気付きました。

そこで一番ベストな環境のデザインを考え出すために生徒達にダイレクトに問いかけてみることを決めました。生徒たちからは続々とアイディアが出ました。

生徒達のインプットに基づいて、生徒の教室のデザインのニーズにもっと合わせられるように、再度デザインし直すことができました。黒板の位置を下げて生徒達はもっと先生が組み立てた内容が見れるようになりました。また、ちょっとした空きスペースで生徒が自由に勉強したことを振り返られるこじんまりとしたプライベートなスペースを創りました。

生徒達は以前よりももっと集中するようになりもっと流動的に教室を動き回るようになったとのことです。現在では、マイケル先生は生徒たちの学習体験を効果的に形作るために生徒たち自身を巻き込むようにし続けているそうです。


「人間中心デザイン」を学校現場で実践し問題解決をしていくことを見ていきましたが、すぐに授業計画を完全に変えて実行ができるほど容易なものではないでしょう

これを実現するには、インタビューできる環境、プロトタイプをテストする協力者、ともにチームを組む仲間(すごく大事)、など様々なリソースが必要になってくるでしょう。また、問題解決をしたいと思う意欲と自分自身がこのデザイン思考のスキルやマインドセットを習得することも大きく前提になってきます。(筆者も勉強中です。)

そこで最後に、ご興味を持った方のためにデザイン思考のスキルを学べるリソースや環境をご紹介したいと思います。

(参考)デザイン思考教育分野の応用・便利情報

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デザイン思考を教育現場に応用する中で私がリサーチした中で有効なリソースの紹介します。

  • IDEO for educators ツールキット
    • 座学で自己学習できる先生向けのデザイン思考を教育現場で活用する教科書。このリンクで名前とE-mailを登録するだけで無料でダウンロードできます。(語学は英語、フランス語、スペイン語、韓国語があるのですが残念ながら日本語はまだないようです。)
  • d.school K-12 Labo ネットワーク
    • スタンフォード大学元祖d.schoolが運営する学校教育専門のネットワーク。このネットワークでは様々なデジタルチャットなどで先生たちのネットワークに入りベストプラクティス共有などされています。Twitterで毎週水曜日夜に、#DTK12chat でトークも展開されています。無料のワークショップなども頻繁に開催されてます。
  • Nueva Design Institute
    • ベイエリアで有名のデザイン思考活用を先駆ける先進的学校Nueva Schoolが開催する、先生向けのトレーニングプログラムです。密度の濃い4日間のワークショップ。今年は6月に2回に分けて実施されるようです。実は筆者も今年参加を検討中です。Nueva Schoolの現場の先生から直接教わる貴重な機会で費用は1,500 USDとやや高めですが参加された人の感想を聞くと、皆、ぜひ行った方がよい!とおすすめしています。
  • Teachers Guild
    • IDEOが監修するユニークな先生のオンラインコラボレートネットワーク。もちろん無料。アメリカまで行かなくてもこのネットワークに入ることで、バーチャルでデザイン思考の教育プロジェクトに参加できます。(自分の問題解決事案を持ってきて一緒に解決のアイディアをもらうことだってできてしまう。)オンラインで問題解決の実践を通して学ぶことができるのと、デザイン思考を活用して教育現場にイノベーションを起こしている世界中の先生たちとのコネクションもできるのは非常に有意義でしょう。
  • 番外編:コミュニティに入る or 創ってみる
    • 身近に関心がある人同士でコミュニティを創ってみるか既にあるなら入ってみてもよいでしょう。実際にデザインプロジェクトに関わることで多くのことが学べるはずです。
    • Aril Studios : こちらは私のデザイナーで教育者である友人が設立したデザイン思考で教育課題を解決していくデザイナー集団コミュニティです。私もその中のArilとして最近加入させてもらいました。これからどんな教育課題を多様なエキスパートのメンバーと一緒に取り組んでいくのか楽しみです。
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