クリエイティブ思考のパワー

グライダー人間から飛行機人間へ

グライダー人間と飛行機人間の違いは何でしょうか?

飛行機はご存知の通り、エンジンがつき自力で飛ぶ能力を搭載した航空機

グライダーとは、エンジンを持たずに自力では飛ぶことができない航空機

これを教育に応用すると、

戦後の教育システムでは、暗記を通した知識習得に優先順位が当てられ、既存の世の中の理論と仕組みを疑わずに理解することが求められていました。(指導者や上司たちの指示に従う優等生、いわば ”グライダー”人間を社会に生産すること。)

生徒自身が自分で仮説を持ち”クリエイティブ” に考えることを推奨するのは通常授業のカリキュラムで教えることは難しく、飛行機人間 (自分自身の仮説を生み出して自力で推し進められる人材)は育成されにくい環境であったでしょう。

Airplane_01
飛行機が優雅に滑空する絵

テクノロジーの発展でアルゴリズムが世の中の仕組みを効率化してくれるようになり、人間がこれまで記憶し、処理していたことは機械の方がより正確に実現できるようになりました。グライダー人間の役割を機械が担ってくれるようになったので、いまの世代の大人は自分で立てた仮説を元にエンジンを搭載させて飛行機人間へと進化していくことが求められます。

そして子ども達には教育システムの中で仮説を組み立てることを歓迎し飛行機型人間へと自立して飛んでいけるクリエイティブな環境を用意していくことが求められています。

そこで、今回の記事では、

まるでグライダーが、エンジンがつき自力で飛ぶ能力を搭載した飛行機となり優雅に滑空していくように、個人が仮説を組み立てる中で独創性を作り出していく時に必要となるクリエイティブヒューリスティックという考え方について、筆者が通うミネルバ大学院で学んだ内容を紹介したいと思います。

クリエイティブな仮説の組み立て方

“クリエイティブ”な人というのは、自分で仮説を組み立て、継続的に独自の視点をもち仮説を磨きかけていくことを生涯を通して行っていく人だ、と個人的に考えています。

仮説 (Hypothesis)とは、”真偽はともかくとして、何らかの現象や法則性を説明するのに役立つ命題”と一般的に定義されます。

brand_heuristic

一般的にサイエンスの分野などで幅広く使われる”仮説”は全3つのステップから構成されます。

  1. 法則性や絶対的なルールを理解
  2. 1のルールや観察から得た解釈、仮定提起
  3. 1と2をまとめ予測を説明

クリエイティビティは 2の”解釈、仮定提起”の部分で発揮させることになります。ここがまさに、それぞれの人によって様々な独創性が取り入れられる部分になります。

クリエイティブヒューリスティック全49の”型”

心理学会の権威 “社会的認知”の父と呼ばれるMcGuire氏がクリエイティブヒューリスティックを自力で仮説を生み出すための思考法として科学的に検証後、全49のテクニックを5つのカテゴリーに分類しました。一つ一つ定義がされ誰にでも教えられるよう体系化がされています。今回は全49を紹介するのは非常に長くなってしまうので大まかなカテゴリー分類を紹介します。

クリエイティブヒューリスティック 5つのカテゴリー

  • カテゴリー1:  観察系ヒューリスティック
    • 起こった現象そのまま特異性も含めて受け入れる
    • ロールプレイイングなどを通したリアルな情報収集
  • カテゴリー2: 分析系ヒューリスティック(シンプルなコンセプト分析)
    • 様々な角度で仮説を分析(類似性をみつける、因果関係を逆にしてみる等)
    • 決まり切った型から抜け出る(逆の立場にたって利益になることを考える、自分をとりまく環境を変える)
  • カテゴリー3: 分析系ヒューリスティック(複雑なコンセプト分析)
    • アナロジー(同様のコンセプト体系を見つけて類推する)
    • 図表にしてコンセプト整理(ツリー図やフローチャートなど)
  • カテゴリー4: リサーチ系ヒューリスティック(過去の研究を再解釈)
  • カテゴリー5: データ系ヒューリスティック(新データ収集、元データ再分析)

特に仮説を作り上げ、解釈や仮定提起をする際に有効なのはカテゴリー1の観察系ヒューリスティックではありのままを受け入れること、ロールプレイングなどを通して先入観を取り払い正確に観察することが有効です。カテゴリー2のシンプルなコンセプト分析では、因果関係を逆にしてみたり自分の常識に捕らわれず新たな視点を取り入れます。カテゴリー3では複雑なコンセプト分析をしながら構造をつかみとります。

それぞれの型を実践を通して適切な状況に合ったものを選び、使いわけることができます。

特に筆者が個人的に役立ったテクニックは、カテゴリー1の”特異性”を受け入れるという概念とカテゴリー3の”アナロジー”です。下記細かくご紹介します。

特異性を受け入れる

仮説を組み立てるとき、常に”良い”仮説を創り上げることが求められます。“良い”仮説とは、1つの側面だけでなく、あらゆる側面を吟味した上で自分なりの解釈を構築することが重要となります。

あらゆる面を吟味するとは、1つの自分が好むアイディアだけでなく、それと対立するようなアイディアも十分理解し観察していくことが大事になります。

例えば、3つ数字の列の規則性を探しなさい、という命題があったとします。

命題:「2-4-6」

“偶数”の規則性なのでは、とまず仮説を持つと思います。

次に、

「4-6-8」、「6-8-10」、「12-14-16」 ⇨ 正

と数列が与えられたとします。規則性は、”偶数かつ、2ずつ増えていく数列” という仮説を次に持つのではないかと思います。

人は心理的に自分がはじめに抱いた仮定は捨てがたいとバイアスを持っているので、”偶数”という前提はなかなか変えられないと思います。

そこで、敢えて自分の意に反することだけれども、

「1-3-5」 ⇨ 正 

ではどうだろうか?と”奇数”のパターンがこの命題に当てはまるかどうか、模索してみます。

奇数の数列「1-3-5」も命題の規則性に合っているということが分かると、さらに仮説を磨いていくことができますよね?

もっと仮説を確認するために、1つずつ増えるこの数列ではどうだろう?

「8, 9, 10」 ⇨ 誤

これは、命題のルールに合っていないということがわかりました。そこで、仮説が徐々に構築されていきます。

当初の仮説:"偶数かつ2ずつ増えていく数列"  

新しい仮説:"偶数奇数関係なく、2ずつ増える3つの数列" 

かなり抽象的になりましたが、

仮説をあらゆる面を取り入れ磨いていくためには、特異だなと思うアイディアを積極的に模索していくことが大切になります。

特に正解、間違いが存在する日本の教育システムで育った価値観だと、特異性を模索していくことは、ネガティブな印象を連想させるかもしれません。これは仮説の振れ幅を確かめ、発展させるための必要なステップとなるのです。

例えば生徒さんで常識と違うような発言をしたら「間違いだ」ではなく、これはこういうことでこの命題には沿っていない、あるいは、こういった場合なら沿っているだろう、というように促していくことで、生徒さん自身の仮説を組み立てる中で大きな発展となっていくと考えます。特異性を生み出してくれる人や事象には感謝をするくらいの気持ちでいるといいかもしれません。

アナロジー

アナロジーは、コンセプトの構造を見て共通性を見出し、類推することです。

難しそうに聞こえますが、中学生数学で応用できるようなロジックになります。例えば、Xという疑問があったとして、その時のテーマをCとすると、

C:X

という関係性の式を見出します。これだけではXを解くことはできないので、同じ関係にあると思われる、A:Bを探し出します。

A:B = C:X (比例関係)

A:BとC:Xが比例関係にある、ということまで突き止められたら、

X= BC/A

と中学生数学を使って求められますよね。

ここでキーとなっていくのは、A:Bのような同じ関係にあると思われる他の例を探すことです。

これは自分でランダムに探すしかありません。ある意味偶然や発想に任せるところがありますが、コツとしては2つあります。

  1. Xを求めるためにこの構造と共通しているものは何だろう?と模索すること
  2. できるだけXと違う分野のものから情報収集をすること

なかなか自分の専門分野の外の世界から情報収集をする時間を持つことは困難ですが、日常生活の中で、最低でも週に1回は違うジャンルの本を読む、などと習慣付けると良いのかもしれません。

ありがたいことに現在ではテクノロジーがアナロジーのアイディア検索にも役立ちます。

筆者の秋学期最後のFinal projectの際に、論文引用する際にアナロジーを使うことを授業で行ったのですが、あるクラスメイトが、AIがキーワードとパターンを検知し、異なるアカデミック分野からキーワードとマッチした論文を探せるツールがあるよ、と教えてくれました。(参考:論文コンセプト検索ツール

膨大なデータを格納するテクノロジーの力も借りて、アナロジーを引きだし、自分の仮説の本題を解決する道しるべと活かしていくことはまさに人間だからこそできる発想方法なのではないでしょうか。

さいごに

以上、クリエイティブ思考の枠組みや実践について紹介していきました。

私自身も自分はクリエイティブなタイプの人間だとは到底思っていませんでしたが、このクリエイティブヒューリスティックを意識して使うようになり、いくつか変わったことがあります。

  • 間違いは”特異性”であって仮説の発展のためにありがたい存在
  • すぐに答えがでないことでも焦らない→アナロジーで考えてみようと寝かせておく
  • 自らをクリエイティブに考えられる状況にわざとおく(携帯のNotiicationを切る、分野の異なる人と対話をする←異業種交流会はアナロジーの交換会だと思って挑むと楽しいです)

実社会だと、どうしても人と違うペースで考えたり、すぐにリスポンスできなかったりすると、この人は不思議だな、と思われてしまうかもしれません。

しかしそれはその人の”個性”の1つになっていくのではと思っています。ご自分のペースで実践できるように取り入れられたらベストなのではと思います。

最後に、

日本の文学博士、外山滋比古氏は、筆者が生まれる30年以上も前もクリエイティブ思考の重要性について既に語っていました。

コンピューターがあらわれて、これからの人間はどう変化していくであろうか。それを洞察するのは人間でなくてはできない。これこそまさに創造的思考である。

–  思考の整理学(1983年)より引用 –

社会が近代化され経済が発展しても、数十年以上も実現できなかったそれぞれの人が仮説を持つ、というこの知的自由を歓迎する世の中はようやく実現できる時代にきているのかもしれません。

テクノロジーの発展する時代の中で、人はもっとクリエイティブに考え仮説を組み立て知的好奇心を満たしたり、世の中の問題解決のために動いていける。学びの定義はこれまでの世の中のシステムの中の枠組みを受け身で理解することから、自ら仮説を創りクリエイティビティを発揮する自由を追求できる知的活動へと進化していくのではと私は楽観視しています。

広告