ミネルバ大学マスターコース進学へ – 続き

世の中のどの問題を解決したいか?

ミネルバのマスターコースでは“専門家兼ジェネラリスト”として世の中の問題を解決するための分析力、効果的な意思決定の手法を体系的に学びます。アルゴリズムの根本理解、統計知識、ロジカル思考、また型にとらわれず発見を見出すクリエイティブな思考パターンを幅広い分野の事例を扱いながら習得していきます。社会人になって10年が経とうとしている私にとってこの学習体験にどっぷり浸かることは貴重な経験だと感じています。

入学選考時に聞かれた質問は1つだけでした。

「あなたは世の中のどの問題を気にしていて、どう解決していきたいですか?」

学校教師の祖父母と父を持ち、”これからの世代に求められる教育は私たちの世代で再定義しないといけないだろう” と考えていた私は、教育格差を解消し誰もが目的を持てる世の中に変えていけないか将来にかけ取り組んでいきたいと答えました。卒業までにそのために必要となる思考力、意思決定に必要なスキルを身につけることをゴールにしたいと思っています。

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今回は私がなぜそのように教育格差の問題解決をしたいと考えるのに至ったのか経緯を書いてみたいと思います。(これまでの調査員としての活動総括としても見て頂けたら幸いです。)

固定化された教育格差の連鎖

私はこれまで1年半の間シリコンバレーを拠点として教育現場をリサーチし、その中で教育現場をみてきたものをこのブログでも発信してきました。当初はICT機器が使いこなされ個別化されたカリキュラムが導入されるなど子どものクリエイティビティを養う工夫がされる教育現場が、20世紀の集団教育から脱却し教育においてイノベーションを創っている渦中の場だと感じていました。また、新しいメソッドがどんどん実行され効果を検証し試行錯誤を行う状況は、日本の教育業界にはないような合理性が存在していると感じていました。

しかし様々な地域に足を運ぶと、アメリカが抱える”固定化された教育格差”が生じている現実が見えてきました。

先進的な教育環境は富裕層の家庭出身の子どもたちは享受できていますが、それ以外の特に貧困層が住む地域(特にOakland市やEast Palo Altoなど) の公立学校では必要最低限の授業のクオリティもままならない状況を見てきました。イノベーションというような言葉は一言も出ないような状況です。

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Oakland市のチャータースクール校舎

ほんの一握りのシリコンバレーの裕福な家庭の子どもたちは、真新しいタブレットからアルゴリズムで個別最適化された自分専用のプレイリストまで、学習内容を選び学んでいく贅沢な学習体験をしています。彼らはおそらく一流大学へ進学し、いずれ実社会のコミュニティを似たバックグラウンドの大人同士で形作ってゆくでしょう。アイビーリーグなどの一流大学に通う生徒では、1%の富裕層からの子弟が全体の5割になるということもあり、いまだに卒業生子弟が優先される入学選考なども指摘されています。また学費も年々上昇傾向で一般的な家庭の負担はより大きくなるでしょう。多くの有名大学出身者を雇用する投資銀行、コンサルティング業界など、就職に学閥や卒業生コミュニティを介してのコネクションが重視されています。

小・中学校からクオリティの高い教育を受けてきた子ども達の学びのアウトプット / 出口は、一流大学へ進学し、その後結局限られた人々が似たバックグラウンドを持つコミュニティにたどりついていくパワーゲームの現状があります。生まれた家庭の所得で、その後の将来が固定化されるであろう格差の連鎖はアメリカでは顕著に存在します。

“教育のイノベーション”と言われ新しい未来型の教育を導入しよう、とテクノロジーや教育メソッドは新しいものに進化していっても、享受できる層は今の状況と同じ構図であり続けるとしたら、それは本当に未来を見据えた教育なのだろうか?と疑問を持つようになりました。

この教育の格差の構図を変え、富裕層だけではない、経済的に不利である子どもも含めあらゆるバックグラウンドをもつ個人がポテンシャルを発揮できる世の中を創ることが次世代の教育のあり方なのでは? と私の中で考えが変化していきました。

イノベーションの加速:実験と効果

シリコンバレーでは一方でこの根本的な教育格差の問題解決のためにアクションを起こしている団体とも出会うことができました。困難な問題に取り組む挑戦者に会うたびに刺激を受けていきました。

一つは、サンフランシスコ市内にある私立学校です。(Millenium School別記事) 全米で最も高学費と言われるサンフランシスコ市内の私立学校であるのに、富裕層家庭出身の子どもだけでクラスを構成するのではなく、学費援助を導入することで44%が有色人種の生徒たちで構成し実際のサンフランシスコ市の人口構成に近い形で子ども達が協働できる場をつくります。そこでは次世代のエリートたちも実社会のリアルな様々なバックグラウンドの同世代と学びを共にすることで、将来社会で多様性の中で協働できる人を育てていきます。研究機関と連携し客観的なデータに基づく学習効果やソフトスキル (共感力など)を評価をしていきます。

もう一つは、貧困層の生徒たちを対象に個別化システムを導入し一人一人の学習傾向を引き出し能動的な学習意欲を掻き立てる指導法を導入することによって落ちこぼれを防ぎ四年制大学卒業を目標に掲げるチャータースクールです。(Summit Public School別記事) 卒業生のこれまでの99%が修了したという高い実績を誇る取り組みです。教育者とエンジニア、データ解析チームが連携し生徒個別の学習状況から最適な学習方法を考慮し教育者の指導法を全面でサポートします。裕福な家庭出身の白人男性中心で意思決定がされる社会で有色人種や経済的に不利な家庭出身者も自立し活躍できるような基礎力を中高学校で身につけるため、学びの科学、テクノロジー、データ解析の力が合わさった教育メソッドを全米11拠点の学校で導入します。

以上の団体のような団体を直接訪問し実務者の方との対話を通し、

あらゆるバックグラウンドの子どもたちがポテンシャルに届く機会を提供し、実際の教育効果、世の中のインパクトを検証していく動きこそが、イノベーションを加速化させていく大きな土台なのでは、と考えるようになりました。

ローカル単位で変えていくこと

日本はアメリカと異なり、州によって法律が異なる連邦国家ではなく、中央集権型の教育システムを持っています。しかし、日本の教育格差の問題は、就学援助制度の利用者率は増加傾向の約16% (2012年)となっており、東京、大阪などの都市部は全体の3割弱にも上っており、日本の中でも子どもの貧困は将来の日本に大きく影響を与える問題となっています。これまで以上に2020年に向けた教育改革の政策を始め日本政府のトップダウンの意思決定を様々なステークホルダーである大人たちが批判的な目で評価していくことが重要でしょう。

不利な立場にいる子どもたちに学習機会を提供し貧困連鎖から抜け出せるサポートとあらゆる個人が可能性を試せる機会を今まさに日本でアメリカのように格差が進行してしまう前に導入することが大事なのではないかと考えます。

その動きを日本の中で加速化するには、

あらゆるバックグラウンドの子どもたちがポテンシャルに届く教育機会を実際に提供し、その上での有効性、学習効果、世の中のインパクトを検証していく動きが必要と考えます。優秀な技術者やデータサイエンティストを教育現場に取り込んでいくことも必要ですが、それ以上に、教育機関が新しい教育施策を実行するときに効果検証を客観的データで評価するためのサポートをできないかと私は考えています。

それを通し、どの教育手法が効果があるのか可視化され、新しいアプローチが様々な形で展開されノウハウを切り開いていくよう教育現場でイノベーションを加速化していく手助けをしていきたいと思います。

ジェネラリストとして意思決定すること

以上、教育格差の課題について書いていきましたが、これからの教育格差の解決に向け、それまでのように教育界だけでは根本解決していくことに限界が出てくるかもしれません。教育分野に予算が回ることだけで解決されるのだろうか、ということも含め幅広く問題を捉え解決策を導いていくことが重要でしょう。

現在のシステムは一つの各分野の専門家たちが最良と考えたものでほぼ意思決定がされ、その集合体で世の中を形作っているのではと思います。アメリカの建築家、システム理論家、作家、デザイナー、発明家である伝説的人物と言われた20世紀の”専門家兼ジェネラリスト” Buckminster Fuller氏は数十年前にこのようにコメントしています。

専門化は孤立と混乱を個人の中に作リ出し、個人が他者に対して、考えること、社会的行動をとる責任から逃れることを良しとしてしまった。結果的に国際的不一致やイデオロギーの不調和を増長する偏見を生み出してしまい、次々に紛争へとつながってしまう。

もし世の中の人々が専門分野の世界だけでなく、コアコンセプトを様々な分野で学び常に実世界の現象と関連付けていき意思決定をしていったら、分野間の距離はより縮まるのではないか。社会をより良い方向へと動く力は加速化されるかもしれません。

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そうなった世の中は想像の世界でしかないですが、ミネルバのマスターコースの中の小世界で垣間見れることでしょう。マスターコースのクラスは私を含め8名の様々なエキスパートの多国籍に渡るプロフェッショナル達が集まっています。教育者、起業家、宗教家、コンピューターサイエンティストなど多岐に渡る他のエキスパート達と協働し共に学び”専門家兼ジェネラリスト”として成長していくことを、今から楽しみにしています。

おそらく私個人の中の変化もこれから顕著にでてくるでしょう。教育分野以外の観点を取り入れることでこれまでにない視点を持ち教育課題を捉えることができるでしょう。

さいごに

きっとミネルバで学ぶ20ヶ月は今までに経験したことのないような思考方法をし気づきを得ていくと思います。その中では私は一貫して, 自分をさらけ出し変化していくことに敏感でいる状態 (Vulnerable) でいたいと思っています。

これからミネルバでの学び体験での過程できっと頑固になって変化を受け入れられない時もあるでしょう。また優秀なクラスメイトに劣等感を持ったり、価値観の違いから議論の衝突もあるかもしれないです。そんな時は原点に立ち還り弱みを認めて、できない状態でいる自分を冷静に観察したいと思います。

コースを修了する約二年後は今の思考からどう変化していくのか楽しみでもありますが、時間は有限です。ミネルバで学びながら、次は実務として教育機関が意思決定できるサポートを同時並行でしていき、変化に機敏な状態で二年間学んでいきたいと思います。

(このブログもしばらくはどのようにアップデートするか模索していきますが気づきを定期的に書いていきたいと思います。)

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ミネルバ大学マスターコース進学へ

私は2015年10月から約1年半ソニーの教育系スタートアップ事業に携わり、サンフランシスコを拠点にアメリカ教育業界のリサーチ活動をしてきました。また、実際にみてきたアメリカの教育現場を個人的な活動としてこのブログを通して伝えてきました。

今後の予定として今年9月から、新設のミネルバ大学 (Minerva School)マスターコース(修士課程) へ第1期生として日本人としても初めて進学することになり、「応用分析と意思決定」 (Applied Analyses and Decision Making) というテーマを研究することになりました。

今回の記事では、ミネルバ大学マスターコースでどんなことを学んでいくのか、私がミネルバで学ぶことを選択した経緯と進学後取り組みたいことについて2回に分けて書いてみたいと思います。

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(右)筆者 ISTE 全米規模最大の教育コンファレンスにて

ミネルバ大学とは

ミネルバ大学は2014年に開校されたサンフランシスコを拠点とする4年制総合大学です。創始者のベン・ネルソン氏が既存の大学が抱える課題を解決することを設立背景としシリコンバレーのベンチャーキャピタルから資金調達後、ハーバード大学をはじめとするアイビーリーグの学長、学部長らを参画に巻き込み設立されたスタートアップの大学です。すべての才能ある学生が未来の社会で活躍できる実践的な知恵を適切な学費で提供する大学です。

ミネルバ大学の授業は、オンラインで行われるため世界中のどこからでも受講が可能です。学部生たちは4年間で世界7カ国の都市を巡り、現地の企業・NPO・行政・研究機関等と協働したプロジェクト学習・インターンを経験します。 また、学生への経済的な負担軽減のために、学費は一般の米国私立有名校の1/3以下です。設立3年目にして、留学生比率は83%、学生の出身国が54カ国となる多様性を実現しています。2017年度の入試では僅か1.9%の合格率となります。(ハーバード大学5.4%, スタンフォード大学4.8%となるのに比較すると競争率は高く学生に人気となっています。)

ミネルバのマスターコース:”専門家兼ジェネラリスト”育成

ミネルバ大学は社会人向けを対象とし実践プログラムとして修士学位のマスターコースを今年から開講しました。授業は全てオンラインで実施され全20ヶ月のコース習得期間、修士論文準備期間で構成されます。コース習得期間中では、1つの専門領域からでなく、Interdisciplinary (異なる学問分野またがる)幅広い学問の領域から複雑な問題を扱い、データに基づく分析をし、問題特定、適切な意思決定を行い、最終的に有効性を査定していく能力を習得します。

特にInterdisciplinary(異なる学問分野またがる)分野を扱う点がこのマスターコースがユニークな特色となっています。”専門家兼ジェネラリスト” として1つの学問の原則を、他の学問に応用し未知な課題に対し新たに解決策を見出していく力を養います。コンピューターサイエンスのアルゴリズムや原則を主な軸とし、経済制裁の有効性や、行動経済学、ビジネス、犯罪学など様々な学問領域に関連する複雑なグローバル問題やジレンマを扱い、問題解決の手法をディスカッションしていきます。

ミネルバマスターコース副学部長はこのようにコメントしています。

現代の実社会は流動的で、個人のキャリアは常に進化し続け、関心事項も変わっていく。そして世界も絶えず変わり続けている。私たちはマスターの学生たちにパワフルかつAgile(機敏)になって欲しい。そして今後どんな状況に遭遇しても順応できるよう備えていって欲しい。

これまで特定の専門性をもつことが一人前だと重視されてきた時代ですが、既存のシステムの中では紛争、資本主義による富の分配の不平等、貧困問題、所得格差による教育機会の格差など様々な解決困難な問題が残っています。これらの複雑な問題は、1つの分野のアプローチで解決するのは困難で世の中の様々な要因が絡み合ってできています。ミネルバのマスターコースは、今後立ちはだかる課題に対して、1つの分野に特定した専門家よりも、複数またがる領域の原則を見出し未知の根本的な問題を特定できるSynthesizer(組み立てていける人)を育成するプログラムです。

ミネルバ大学で学ぶことを選択した経緯

これまで教育分野の問題解決に関心を持ち教育市場を幅広くリサーチしてきた私がなぜ専門的な教育学のではなく、このコースを選択したのか?

それは、現代未解決の問題について向き合っていくため理論的で包括的なカリキュラムを提供する教育機関は、ミネルバ大学以外にないと考えたからです。

そして私は未解決の問題の一つとして、根深い教育格差の問題に取り組んでいきたいと考えています。専門分野に限定されず様々な異なる分野の視点から教育格差問題を捉え、未来の教育のあるべき姿に向け適切に意思決定していける知識、能力を身に付けたいと考えました。先人の教育エキスパートとは異なる観点から問題解決に取り組むことで教育にインパクトを与えたいと考えます。

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Minerva School Master’s programの実験プログラムに参加したマスター生 (Homepageより)

次回に私がミネルバに進学し特にどんな教育課題に取り組んでいきたいのか。私がこれまで1年半アメリカの教育現場を見てきた活動を通して感じたことも踏まえて書いていきたいと思います。

 

 

Thanksgiving

今回は番外編の投稿です。この時期はホリデイシーズン真っ盛りのアメリカです。毎年11月第4木曜日はThanksgiving day (感謝祭の日)です。まさに日本のお正月と言われるようなイベントでこの日のために親戚家族があつまり一緒に豪華な食事を取り、一晩では食べきれない程の料理を一週間かけて食べ続けるということ。この週は食べ続けて太る人が続出とのことです。

何と言ってもThanksgivingの食事に欠かせないのが七面鳥の丸焼き。

この日のためにどの家庭も事前に準備をしておきます。どこのお店で七面鳥を注文するか合戦が繰り広げられレシピ本が一気に店頭にならんだり。一般的に伝統的と言われるレシピは、パンを詰めこんだ七面鳥のグリルにグレービーソース、クランベリーのソースを添えるもの。マッシュポテトとデザートのパンプキンパイも必需品です。

感謝祭の醍醐味は、”豊富さ”だそうなので余るくらいの食べ物をふんだんに並べないといけないとのこと。

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今回ご縁がありサンフランシスコ市内に住む夫婦が友人たちを招くカジュアルな家庭的なThanksgivingディナーをご馳走になりました。七面鳥は食べ応えがありとってもジューシーで、毎年このように幸せに食事を大切な人たちと囲めることにお互いに感謝をし合いながら交わす夕食は温かくとても特別な時間でした。

Thanksgivingの翌日、金曜日は毎年各Retailのお店がセールを繰り広げます。Black Fridayと呼ばれ、このセールを境に小売店の年間通算収支が黒字に転換するといわれていることから名付けられたのことです。その週明けの月曜日はCyber Mondayと呼ばれ、(職場のPCでネットショッピングする人が多いとのこと?)E-commerce系がセールを開始します。

このまま12月のクリスマスまでホリデイムードが続きそうとのことです。子供たちにとっては一年で最も楽しみな時期になのでしょう。

余談ですがAmazonの子供向けギフトアイディアの中に、立派にジャンルの中で「STEM」(Science, Technology, Engineering, and Math) の学習に役立つ おもちゃのジャンルがありました。子供へのプレゼントもきっちりSTEM教育につながるようアメリカの中ではメジャリティの層まで定着しているのですね。Amazon 子供向けギフトアイディア