注目

ミネルバ大学マスターコース:専門家兼ジェネラリストの人物像

最初の1ヶ月を経て

ミネルバ大学院での授業が開始し早くも1ヶ月が経ちました。現在は2つの基礎教科を学んでいます。Formal Analyses(論理、統計、データ分析、プログラミング)とEmpirical Analyses(学びの科学、問題解決手法など)の2つです。大まかにFormal Analysesでは主に批判的思考力を養い、Empirical Analysesではクリエイティブ思考を養います。

来年度以降はより高度な分析手法や意思決定を学んでいき全体を通して、マスターコースの生徒は “専門家兼ジェネラリスト”として、これまで得られた知識を組み合わせ未解決領域をベンチマークし解決案を模索し試行錯誤するために必要なスキル、マインドセットを養っていきます。

今回は、その”専門家兼ジェネラリスト”について詳細を書いていきたいと思ったのですが、その前にマスターコースの授業が始まり最初の1ヶ月の振り返りを簡単にシェアしたいと思います。

この1ヶ月は、私のなかでも様々な気づきが得られたり浮き沈みの激しいチャレンジングな日々でした。初めてである体験ばかりだったからです。簡単に1ヶ月を振り返ると、

  • アクティブラーニング100%の授業
  • 思考する過程を説明すること
  • 多国籍のクラスメイトとのコミュニケーション

この3つが私が想像していた以上にチャレンジングだった点です。

アクティブラーニングの授業では、事前に授業の内容を理解し自分なりの言葉で説明するレベルまでの準備が求められます。具体的に言うと、毎クラス約50-100ページに及ぶ文献を読むことや事前課題を全てやり必要知識を理解することは当たり前のことだと思うのですが、それ以上に自分なりにどのように応用できるのか、この内容がどのように課題になっていくのかなど、授業が始まる前までに思考を繰り返していく必要があります。授業では生徒全員の発言が求められるので、そこで他の生徒の発信と重ね合わせ、内容を授業内でさらに発展させていていきます。この密度の濃い授業のおかげで自分の中の知識の定着は深いものになっていると実感があります。

次に思考する過程を説明することについては、とてもチャレンジングな要素であり日々奮闘中です。例えば、ロジックのあり方、Sound (妥当)な議論、意思決定とはどのようなことなのか定義や原則を学んでいき、それがいまの世の中でどのように活用されているのか?たとえロジカルな主張をしたとしても好意的に捉えられる状況とそうではない状況が世の中では存在していること。その中でどう正しい論理主張を効果的にしていけるのか?という思考の過程を授業開始後まもない状況から、クラスメイトとの議論は、はじまっていきました。ロジックのあり方を覚えることに必死だった私は、そこまで思考力が及んでいなかった点を反省しました。授業で求められているのはただの正解ではなく、思考の過程を論理的に説明し議論をすることです。このとことん実践まで踏み込み個人の思考が試される点はアクティブラーニングの醍醐味なのでしょう。

3つ目は、多国籍のクラスメイトとのコミュニケーションにおけるチャレンジでした。生徒はみんな、それぞれ異なるキャリアのバックグラウンドを持つ学びの意欲が旺盛な人たちです。国籍は様々で、海外在住経験を持ちグローバル環境に慣れたメンバーでクラスは構成されています。(例えば、自分の出身ではない外国の大学を卒業して仕事も外国でしているという人や、筆者のように日本人ではあるけれどもアメリカ在住など、個人のキャラクターが独立していています。)この人はこの国籍出身だから、といったバイアスはありません。このような環境では、的確に授業のコンテクストを掴んで、誰にでもわかるように自分の立場を明確にした上で論理的に発言をしていくことが求められます。まだまだ筆者は自分の言葉ではなく一般論や論文に書いてある内容を引用しがちなので、今後も継続的に立場を明確にして自分の言葉で議論を論理的に組み立てる点を強化していきたいと思っています。

専門家兼ジェネラリストの思考パターン

さて、本題に入りたいと思います。

このマスターコース全体のゴールとして、 “専門家兼ジェネラリスト”になることと述べましたが、ミネルバ大学が定義しているこの専門家兼ジェネラリストはどんな人物像でどのような思考をする人なのでしょうか?

下記、1ヶ月を通した学びの中で私なりに解釈した内容になります。

未解決領域は、各領域の交錯に存在

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イノベーションは、複数分野の交錯する領域で起こり、実際にある特定の問題を解決する人が多様なメンバーで幅広い分野にまたがる につれ、解決しやすくなるとも言われます。

例えば、製薬会社の研究者がある薬の研究で予期せぬ毒物が検出されてしまい新薬研究を妨げてしまいました。毒物学者に相談をしても解決ができなかったので解決チームを多様な専門家たちに募ったところ、毒物学と関連することがないタンパク質の結晶学の専門家がその複雑な問題のパズルを解いたとのことです。結晶学で用いられるメソッドを毒物学の中に応用することでこれまでにない解決案がひも解かれたという事例があります。

未解決事項が、異なる分野の中の規則性を応用することで解決案が見えてくるということです。人間の英知の集大成として、各分野の中の規則性やルールは確立されたものが出てきました。それを他分野にも応用していくことで、新たな解決案を考えていくという発想です。

帰納的思考と演繹的思考の使い分け

 

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これまでに紐解かれていなかった未解決問題に立ち向かっていく”専門家兼ジェネラリスト”には、正しく帰納的思考と演繹的思考の使い分けが求められます。

帰納的思考では、特定の問題を規則性やルールに則って的確に解決していきます。例えば、すでにセオリーが確立されていて、それを理解し、規則通りに適用していく力です。「正解が見えている分野」で正解を出していく力、とも言い換えられるでしょう。おそらくこれまでの伝統的な日本の教育ではこの力が特に重視されてきていたのではないでしょうか。しかしこの特定分野のなかの専門性を確実にマスターする、というところはジェネラリストとして最も基本的な土台になります。

演繹的思考では、不明確な問題を推論を通して解決に導いていきます。例えば、この問題にはこの規則性を発展して応用できるのではないか、と推論し効果的な解決案を考え出していく力です。「正解が見えない分野」で効果的な解決案を考えていく力、ともいえるでしょう。これは実社会の中ですでに多くの人が実践しているのではないでしょうか。日々の仕事で正解は見えないなか、それらしい解決案を試行錯誤を通して導いていくことはビジネス現場などで多くみられます。この推論の過程をいかに効果的にハックし問題解決していくか、については様々なフレームワークやツールが使われます。(デザイン思考、アナロジー思考など)

専門家兼ジェネラリストは帰納的思考で正解を導けるものを解きながら、演繹的思考で解決案を推論を通して導きだし適切な状況で使い分ける柔軟性が求められます。

境界線を引く能力

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そこで次に、”専門家兼ジェネラリスト”は帰納 / 演繹思考を使いこなし、未解決問題についてどこからどこまでが解決可能で、可能ではないかと分ける力が求められます。特に、自分の特定の”中の専門分野”については知識があり状況をよく理解しているので、問題解決の制約となっている要素が何なのかと把握することができます。(例えば、新薬開発においては政府が決める薬事法が制約条件になってしまっている、など。)

そして未解決問題を解決するために、どの部分では自分たちの知識やノウハウで対処できて、どの部分では限界があるので革新的な解決案が必要なのか、を明確にします。革新的な解決案については、”外の分野”の規則性に当てはめ解決のヒントが得られないか、外の専門家にアドバイスを募ってみるなどし、できるだけアイディアを多様化し、その中でも関連性がありそうなところをベンチマークしていきます。

“外の分野”については、知識を全て理解することまでは求められません。すでにその分野のエキスパートがいる上でルールも確立されているため、適切に外部の力を借りたり模倣をすることが求められます。

この境界線を引くレベルに到達できたら、問題解決やイノベーションは間近に見えているのかもしれません。

さいごに

以上、未解決領域について問題解決に導く思考法とプロセスを紹介してきました。専門家兼ジェネラリストの思考の方法や人物像がなんとなくお分かりになったでしょうか?

常に柔軟かつ、批判的思考とクリエイティブ思考、帰納、演繹的思考を適切な状況で使い分け、どこで革新的な解決案が必要なのかを明確に出来て、外の分野の専門家たちとも効果的に協働していける人物像なのだと理解しています。

例えば教育業界で働き小学校の生徒の批判的思考力を伸ばしていきたい、と課題を感じていたとしたら、学校の事情や学習指導要領などどの部分が制約になっているのか考慮していき、どこの部分が革新的な解決案が必要となってくるのか。その部分はたとえば社会人向けの人材育成企業研修で既に実施されていないか?など外の分野にもアンテナを貼ってみたり、企業研修で使われているメソッドを小学校の教育にどう応用できるだろう?と考えてみることなどは有効かもしれません。

自分の専門性から一歩外に出て思考を巡らせてみる。このように実践することから始めていくのも”専門家兼ジェネラリスト”の素養を身につける効果的な方法かもしれません。

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Futuristが考える教育の未来ビッグアイディア

21世紀型教育:もうはじまってる。あとはスケールすること。

先日、サンフランシスコで開催されたWorld Fair Nanoという未来をテーマにしたイベントで「Future of Education(教育の未来)」のトピックが取り扱われ、21世紀に向けた教育について上手にまとめられたトークセッションを教育関係者ではなく一般の参加者向けに開催された内容となっており、心に響いたのでご紹介したいと思います。

テクノロジーがもともと生活と身近で、これからAI, 自動化全盛期時代に生きるデジタルネイティブの子どもたち。子どもをとりまく教育も時代の変化に合わせるべき (“21世紀型教育”) だと教育現場で言われてます。今年は2017年。21世紀が始まり17年たった教育現場の今では、一部の先進教育現場から21世紀型教育が実践されるようになりました。未来を見据えた教育サービスを提供するEdtech企業や新設学校も出てきています。しかし公共教育全体レベルでは20世紀型教育からの脱却は完全にはできていない、というのがいまの日米共通する状況でしょう。あとはこの21世紀型教育をスケールすること(広く普及させること)が課題となる、という趣旨がこのトークセッション全体を通し語られていました。

technology-2025795_960_720《ちなみにこのWorld Fair NanoというイベントではIT業界だけでなくあらゆる分野の専門家(Futurist) が各分野の未来のビッグアイディアを語るトークセッションが終日企画され「Future of Journalism(ジャーナリズムの未来)」「Future of AI(AIの未来)」から、「Future of Dating(デートの未来)」まで幅広いテーマが扱われました。未来についていろんな角度で柔らかい頭で考える機会がファミリー同伴のイベントで提供されていることにサンフランシスコの土地柄気質を感じました。》

教育のFuturistとして壇上で語っていたのは、社会起業家としても注目され、20代のヤングイノベーターの栄誉として贈られるForbes 30 Under 30 にもノミネートされた現在EdTechスタートアップ企業の創業者Eric Lavin氏です。

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当日トークセッションでピッチをするEric氏

(Eric氏:) 20世紀の教育の目的は、生徒に知識を伝達することだった。未来は、生徒は考察を生み出していく側に立ち、幸せで生産的な市民を育てることが教育の目的となっていく。

そして21世紀教育の新しい目的を果たしていく上で大きく立ちはだかるクエスチョン(ビッグアイディア)の3つを会場にシェアしました。

下記、Eric氏のピッチの中で話されている未来の教育ビッグアイディア3つを紹介します。

未来の教育ビッグアイディア3つ:

1. 幸せの追求

2. 生産性(スキルとキャリア)

3.シティズンシップ(地球市民)

今後21世紀、22世紀の未来の教育へ進化させていく上ではこの3つが大きく問われてくる、とEric氏はいいます。Eric氏のトークと筆者の解説、コメントを交えながらご紹介します。

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1. 幸せの追求 :

情報社会の中で暗記型脱却、学ぶ幸せを見つけるチャンス

Eric氏は情報社会の時代は子どもの学び体験にとってチャンスといいます。

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(Eric氏):これまで20世紀は知識を人間が頑張って覚えることが肝だったが、今の子どもたちは簡単にGoogleで専門的な情報にアクセスできる。デジタル情報と上手に付き合い学習に生かしていくことでこれまで以上に学びを深めることもできるだろう。それによって興味に目覚めその分野のエキスパートの知識を身につけ(場合によっては学校の先生よりもその分野においては知識が長けるということも)学んでいくことに情熱を感じる分野と出会うことができるだろう

情報社会のベネフィットを教育現場に生かしていくことで、学生時代の若い時期に、豊かな学習人生が築いていけるようになる、とポジティブに捉えていることが印象的でした。学生の時期にキャリアの目標を好きなことやパッションと結びつかせて志すことができます。キャリア目標に基づき個人が勉強のゴールを設定し能動的に学んでいくことを可能とします。

また実際に学校以外の大人たち、実世界で活躍するプロの大人とつながることも生徒個人のキャリア観を持つことを助けるでしょう。テクノロジーがさらにそれを容易にし、すでにアメリカではNeprisというEdtech企業がプロの大人と学校の生徒たちをビデオ会議でつなぐサービスを展開しています。今後、このようにコミュニティの大人が教育現場に関わっていくようなこともさらに広がっていくかもしれません。

これは人類の歴史上で、人間の学びの幸せが解放されてきたステージに進化しているとEric氏は語ります。”学生だからまだ早い”と言われていた20世紀の時代は終わり21世紀では”興味あるならやってみましょう”と専門分野に飛び込むことを奨励されるのです。

2. 生産性(スキルとキャリア) :

AIや自動化の中で”人間はより人間らしく”働ける。

AIで仕事奪われるのでは、という論調でネガティブにとらえるより、自動化によってより知的な生き物として働くことができるチャンスと捉えるべきと訴えます。

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(Eric氏): AI, 自動化は世の中の仕事の効率を圧倒的に改善してくれる。運転や窓口、会計業務など、これまで存在している職業を機械が代行するようになる。人間は、機械が行う業務やデータ分析を行い、それを正しく目的に沿って設計し、最終的に人間が判断する役目を担うことになるだろう。それがよりEthical (倫理的)な判断でリーダーシップが発揮できているかどうか、が問われるだろう

AIやデータを駆使するスキル、問題解決力、リーダーシップ、3C (Communicate, Collaborate, Create) スキルの他に、倫理的な判断ができる他者への共感力を発揮していくことが特に大切だとEric氏は述べます。

倫理的な判断力を養うにはやはり実世界に近い形で協働プロジェクトの実践を若いうちから経験していくことが効果的でしょう。すでにプロジェクトベースドラーニング(PBL)は多くの学校が導入しております。さらに今後は知識量を測るテストの点数ではなく、生徒の判断力、共感力といった評価しにくいようなスキルが査定できるようなことが教育現場のニーズとして出てくるでしょう。そこで保護者の方は、もうすでにテストの点数の数字にそこまでこだわる必要がないこと、知識ではなく倫理的判断力、リーダーシップをお子さまに身につけてもらうよう昔の感覚から切り替えていく必要がでてくるでしょう。

3. シティズンシップ(地球市民) :

価値観異なる人がいるコミュニティとどう付き合うか。

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2016年アメリカ大統領選挙各County投票結果。赤はトランプ支持派、青はヒラリー支持者。

(Eric氏): ネットワーク化されたいまの時代、不特定多数の人と簡単につながることができますよね。でもその人が、自分が当たり前だと思っている常識が通用する人とは限らない。それが2016年の選挙結果で辛い現実ですが証明されてしまい、多くの人にとってショックな出来事となりました。そんな世界で子どもたちはこれからどうコミュニティと共生していくのだろうか?私たちは教育の中で解決案を考えなければいけません。

これからの社会を生きる子どもたちは、価値観の違いの溝を深めるのではなく、相互理解に務める姿勢をもつことが大切となってくるでしょう。(旧記事でグローバルシティズンシップについて掲載。)

グローバルシティズンシップ(地球市民)のマインドセットを身につけるには、単に異文化に触れ共感するだけではなく、自国の中に内在する多様性の中も着目し、ローカルなコミュニティの中で協力し巻き込んでいくことが重要となっていくでしょう。

アメリカは西海岸、東海岸の富裕エリート層地域中心に経済やイノベーションの中心を創り出してきました。エリート層同士で似たビジョンの人と繋がっていくことが良しとされてきましたが、革新的な教育機関では、従来のエリートだけで固まる教育から、多様な層の人々が所属するローカルなコミュニティと協働し、世の中に実際に起こっている問題から目を反らすのではなく、共生していく前提で問題解決、行動力を育成する学校が出てきています

21世紀型の高等教育を創造しているMinerva 大学では、ハーバード大やスタンフォード大などの入学資格に合格するレベルのエリート学生が所属している新設大学ですが、学生に”Civic Project” としてキャンパスのあるローカルな自治体と協力するプロジェクトを設けます。サンフランシスコ市内の治安改善、街の清掃計画などの具体的なコミュニティの問題に自治体関係者と共に協働する機会をもちます。

また、サンフランシスコでもっとも新しい私立中学校Millenium School では、一部の富裕層の生徒だけに良質な教育の場を提供するのではなく、生徒たちが社会に出て大人になるとき、コミュニティにいるあらゆるバックグラウンドの大人たちと平等に倫理観を持って協力していく必要があるとし、入学生徒の配置をサンフランシスコ市の実際の人種や世帯年収の割合に近い形に合わせるようバランスを考え入学許可を実施しています。Flexible Tuition (柔軟な学費制度)を導入し、裕福な白人の生徒だけでなく、黒人やヒスパニック系の生徒たちにも平等に教育機会を提供する仕組みを取っています。そして子どものうちから、経済、文化的バックグラウンドが異なる生徒同士とチームワークを築ける力を養います。(Millenium Schoolについての詳細は、Future Edu Tokyoの寄稿記事に掲載してます。)

このようなコミュニティの分断現象は、アメリカだけでなく、日本を含め、世界的にも起こっていくのではと考えます。異なる価値観の人たちと共感をし協働でき問題解決に挑む人材がこれからのグローバルエリート像となっていくのかもしれません

さいごに、教育FuturistのEric氏がビッグアイディアを共有したあとに、会場に参加している家族連れやビジネスマンに向かい、このように呼びかけました。

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未来の教育は、学校関係者や教育界だけに任せるのではなく私たち大人全員で子どもたちを幸せで生産的な地球市民として育てるため、共に教育のイノベーションを各々のコミュニティで起こしスケールさせていきましょう!

“It takes a village to raise a child.” 「ひとりの子どもを育てるには中の大人の知恵と力が必要」というアフリカのことわざがあります。

教育界だけでなく保護者、コミュニティの大人が知識を備え、子どもを見守り、ローカルに働きかけることで、21世紀、22世紀を見据えた教育のスケールを加速させていくことでしょう。

デザイン思考 教育分野への応用

先生はデザイナー

ここ数年アメリカでは、デザイン思考は教育現場で先生がデザイナーとなって学校の問題解決をしていくツールという文脈で様々な成功事例を創り出し、ナレッジシェアをし合う先生ネットワークができています。

デザイン思考が、ビジネス以外の教育分野でも活用されていることは、まだ日本では一般的にはあまり知られていないかもしれません。

この記事ではデザイン思考が、教育現場にも応用されているアメリカの例をご紹介し、日本でも教育課題解決を形にしていくアイディアのヒントとして、こういうことも出来て、こういうアプローチもある、という視点で以下のような流れでご紹介できたらと思います。

  • デザイン思考の5つのステップ:クリエイティブで失敗を恐れずに前に進んでいくプロセス
  • デザイン思考の失敗を恐れず前に進む (Learning by Doing)特性が生徒主体型教育と親和性あり
  • 教育現場の問題解決ツールとしてのデザイン思考
  • 先生はデザイナー:教育現場の問題大小関わらず解決していく事例紹介

デザイン思考の5つのステップ

デザイン思考は、「人間中心デザイン」に基づいた発想法で、“デザイナーが元々備わっているクリエイティブなアイディアを引き出す発想法”をデザイナーでない人にも身につけられるよう、現在ではデザイン業界以外の分野に広がり、ビジネスの分野で活用されていることをよく聞くようになりました。不可解で難しい問題に直面した状況で、ロジカルな左脳を使った発想ではなく右脳を使ったデザイン思考の観点から発想をすることで、イノベーションを生み出すことにつながると注目され、現在では多くのビジネスマンやビジネススクールでも学習されてます。

火付け役はアメリカのデザインコンサルティングファームのIDEO社です。問題発見から問題解決に到達するまでの5つのステップを、非デザイナーの誰でも思考法が身につくよう体系化しました。それが、Empathy (共感・理解), Define (定義・明確化), Ideate (アイディア開発、創造), Prototype (プロトタイプ), Test (テスト)の5つのステップです。
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「人間中心デザイン」に基づいて、モノではなく、人に着目して考えます。この5つのステップを通し、ユーザーを深く理解し共感し、ユーザーの問題を特定し、解決策を形にしていきます。このステップを何度も繰り返す (Iterate)ことで改善点を生かしさらに良いプロトタイプ(試作品)を作っていきます。常にユーザーの視点に立ち、立ち止まることなくアイディアを形にしていくクリエイティブで失敗を恐れずに前に進んでいくプロセスといえるでしょう。


では、教育現場とはどうのようにつながってくるのでしょう?

デザイン思考の教育現場とのつながり

デザイン思考と構成主義

デザイン思考のコンセプト自体が、生徒主体とする教育法と相性が良いと言われてます。特に、デザイン思考の失敗を恐れず次々とアイディアを形にし実践を繰り返していく過程で学ぶ、“Learning by Doing” の要素が、子どもの教育で自ら考え抜く力を養う教育法(構成主義)に通じるのではという考えです。(構成主義はデューイ、ピアジェらが説いた教育理論で、子供中心、オープン・エンド、プロジェクトベース、先生は具体的な教えを強制せず、学習者を注目の中心に置いた指導法です。)

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生徒たちは必要最低限の知識だけを持ち試行錯誤を繰り返します。正解は先生が出すのを待つのではなく、生徒たちが仮説を持ちながら探っていきます。先生は、生徒たちが一通りもがいて、行き詰まった時にだけ進行を手助けする程度です。

生徒たちは、この濃い学びを通し、アカデミックの内容、批判的思考、問題解決力、他人と協力すること、コミュニケーション、主体的学習、自己肯定感が身につき、Deeper Learning21世紀型の新しい状況に適切に知識を応用していくスキルが身についている学習効果)の状態を生み出せると言われています。

デザイン思考=教育現場の問題解決ツール

また、デザインファームIDEO社は“先生はデザイナー”とし教育現場の問題を解決していくことを次のように推奨して言っています。

“世界の教室、学校は毎日、先生のフィードバックから細かい日常のスケジュールまで様々なチャレンジと向き合っている。どんなスケールの問題でも教育者が直面するチャレンジはリアルで複雑で多様である。だからこそ、教育者は常に新しい観点、ツールやアプローチが必要となってくる。デザイン思考はその中の1つだ。”

教育現場で教育者が問題解決をする際の新しいツールの1つとしてデザイン思考が活用できると唱っています。

デザイン思考の教育現場問題解決事例

では実際にデザイン思考を活用して、教育現場の問題解決をしていく事例を2つご紹介します。学校を創る大型プロジェクトから、教室のレイアウトを変える、など小さなプロジェクトまで問題の大小問わず様々な問題解決が行われていることがわかると思います。

1. デザイン思考で新しい学校創設: Alpha Public School Cindy Avitia High School

シリコンバレーの郊外、East San Joseにチャータースクールの高校Alpha public school Cindy Avitia High School がデザイン思考をベースとし設立されました。

downloadこの地域はSan Jose市の郊外に位置し貧困層やラテンアメリカ系やベトナム系移民が多く人口を占める地域です。

校長先生は、コミュニティの家族たちの問題を解決する学校をつくるため、East San Joseの保護者中心に多様なメンバーのボランティア有志を集め、Alpha Public Schoolの高校を設立するデザインプロジェクトを結束しました。

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Alpha Public School が目指す保護者と先生の連携システム

“どうやったら、East San Joseの大学進学を目指す高校生を増やすことができるだろう?” この保護者が一番懸念してる問いかけをスタートとし、生徒と保護者に80回以上インタビューを実施します。そこでわかったことは、保護者自体が、大学進学について資金面でネガティブな気持ちを持ち、それが子どもにも伝わり子どもも大学進学をあきらめてしまう、という真相が見えてきました。保護者を学校の中に巻き込んでいくことがKeyであるとつきとめます。

そこで解決策を形づくるため、様々な予算などの制約はまずは置いておいて、学会の研究論文や上位校の大学進学プログラムをベンチマークしました。そして、運営資金がほぼゼロのAlpha Public Schoolでは、大学カウンセラーをボランティアで雇い学校に常駐する案がまず出ました。また、East San Joseの保護者たちは、語学や文化の壁があり学校の関係者から情報を仕入れるより、身近で顔見知りの保護者の口コミから情報入手することから、保護者の中からリーダーを選出し、大学カウンセラーがそのリーダーをトレーニングすることにしました。このリーダー達は自分が親しみのある保護者グループをとりまとめ、リードしていきます。

この保護者リーダーを育て保護者コミュニティの中でアンバサダーになっていくCollege promoter parent leadership programを、Alpha public school の中学校で試験的に実施してみました。高校が2015年秋に設立されてからもこのプロトタイプの結果を精査しフィードバックを集めながら改善をし続けています。成果はこれから検証されていくことですが間違いなく保護者のマインドセットはこのプログラムによって変わってきたはずです。

2. 生徒が心地いい教室のデザインを:New York先生のデザインプロジェクト

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Design thinking for educators Websiteより

ニューヨークの2年生の担当マイケル先生は、デザイン思考と出会ってから、生徒達にいままで一度も教室で何が心地いい?と質問したことがないことに気付きました。

そこで一番ベストな環境のデザインを考え出すために生徒達にダイレクトに問いかけてみることを決めました。生徒たちからは続々とアイディアが出ました。

生徒達のインプットに基づいて、生徒の教室のデザインのニーズにもっと合わせられるように、再度デザインし直すことができました。黒板の位置を下げて生徒達はもっと先生が組み立てた内容が見れるようになりました。また、ちょっとした空きスペースで生徒が自由に勉強したことを振り返られるこじんまりとしたプライベートなスペースを創りました。

生徒達は以前よりももっと集中するようになりもっと流動的に教室を動き回るようになったとのことです。現在では、マイケル先生は生徒たちの学習体験を効果的に形作るために生徒たち自身を巻き込むようにし続けているそうです。


「人間中心デザイン」を学校現場で実践し問題解決をしていくことを見ていきましたが、すぐに授業計画を完全に変えて実行ができるほど容易なものではないでしょう

これを実現するには、インタビューできる環境、プロトタイプをテストする協力者、ともにチームを組む仲間(すごく大事)、など様々なリソースが必要になってくるでしょう。また、問題解決をしたいと思う意欲と自分自身がこのデザイン思考のスキルやマインドセットを習得することも大きく前提になってきます。(筆者も勉強中です。)

そこで最後に、ご興味を持った方のためにデザイン思考のスキルを学べるリソースや環境をご紹介したいと思います。

(参考)デザイン思考教育分野の応用・便利情報

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デザイン思考を教育現場に応用する中で私がリサーチした中で有効なリソースの紹介します。

  • IDEO for educators ツールキット
    • 座学で自己学習できる先生向けのデザイン思考を教育現場で活用する教科書。このリンクで名前とE-mailを登録するだけで無料でダウンロードできます。(語学は英語、フランス語、スペイン語、韓国語があるのですが残念ながら日本語はまだないようです。)
  • d.school K-12 Labo ネットワーク
    • スタンフォード大学元祖d.schoolが運営する学校教育専門のネットワーク。このネットワークでは様々なデジタルチャットなどで先生たちのネットワークに入りベストプラクティス共有などされています。Twitterで毎週水曜日夜に、#DTK12chat でトークも展開されています。無料のワークショップなども頻繁に開催されてます。
  • Nueva Design Institute
    • ベイエリアで有名のデザイン思考活用を先駆ける先進的学校Nueva Schoolが開催する、先生向けのトレーニングプログラムです。密度の濃い4日間のワークショップ。今年は6月に2回に分けて実施されるようです。実は筆者も今年参加を検討中です。Nueva Schoolの現場の先生から直接教わる貴重な機会で費用は1,500 USDとやや高めですが参加された人の感想を聞くと、皆、ぜひ行った方がよい!とおすすめしています。
  • Teachers Guild
    • IDEOが監修するユニークな先生のオンラインコラボレートネットワーク。もちろん無料。アメリカまで行かなくてもこのネットワークに入ることで、バーチャルでデザイン思考の教育プロジェクトに参加できます。(自分の問題解決事案を持ってきて一緒に解決のアイディアをもらうことだってできてしまう。)オンラインで問題解決の実践を通して学ぶことができるのと、デザイン思考を活用して教育現場にイノベーションを起こしている世界中の先生たちとのコネクションもできるのは非常に有意義でしょう。
  • 番外編:コミュニティに入る or 創ってみる
    • 身近に関心がある人同士でコミュニティを創ってみるか既にあるなら入ってみてもよいでしょう。実際にデザインプロジェクトに関わることで多くのことが学べるはずです。
    • Aril Studios : こちらは私のデザイナーで教育者である友人が設立したデザイン思考で教育課題を解決していくデザイナー集団コミュニティです。私もその中のArilとして最近加入させてもらいました。これからどんな教育課題を多様なエキスパートのメンバーと一緒に取り組んでいくのか楽しみです。

VR教育分野への応用-注目VR/AR教育企業編

学校現場と密着 注目VR/AR教育企業

前回の記事では、アメリカ教育現場(学区/学校)でVR/AR教材を導入する上での今の反応と課題点についてお伝えしました。

そこで今回は、学区/学校の先生達からの支持を得ながらも着実に導入事例を増やしている注目VR/AR教育企業、サービスを紹介したいと思います。

今の時点では現カリキュラムの中に埋め込みやすいこともあり、バーチャルトリップ(バーチャル社会科見学)やSTEM (Science, Technology, Engineering, and Math) 教科系コンテンツが中心に、学校現場で導入事例を作っています。

<バーチャルトリップ系コンテンツ提供企業>

– Nearpod

  • 教科:360° バーチャルトリップが主。デジタルリテラシーやサイエンスなども充実。
  • 特徴:先生向け教材作成、査定ツール充実 / 低価格プラン(学校/学区 1,000ドルよりライセンス購入)

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さきほどのJaime先生が活用していると紹介したNearpod社です。低価格プランとバーチャルトリップ系の豊富なコンテンツからVR教材の初心者〜中級レベルの教育コミュニティのプラットフォームを着実に築いています。

先生が自身でVR教材を作り生徒とインタラクティブなやりとりができ、それぞれのコンテンツに授業の目的や先生用の解説も充実しているなど、生徒の学習効果の査定もしやすいツールとなっています。

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– Google社 Google Expeditions

  • 教科:バーチャルトリップ中心
  • 特徴:低価格Cardboard、ネット接続無しでも使用可能

Googleが提供するGoogle Expeditionsは、専用のGoogle Cardboard(20ドル以下で安価)使用、インターネット接続がない場合も専用ルーターでバーチャルトリップを教室で手軽に実現します。

博物館や深水の中、宇宙といった景色に加え、Googleがプロデュースするアートとカルチャーの専門機関Google Cultural Instituteのパートナー提携している世界中の美術館/博物館が協力のもと、詳細に富んだアート作品の教育コンテンツを制作します。

先生のサポートとしては、Google for Education Training CenterでExpeditionの授業プランの例や解説が充実しています。また、他の先生が作ったLesson planもグローバルでオープンでシェアされているなど先生同士の情報交換も可能にしています。

<STEM教育系コンテンツ提供企業>

STEM (Science, Technology, Engineering, and Math) 系や難易度の高い教科の分野を提供する企業も出てきています。特にサイエンスや数学といった分野は、テキスト上では難易度が高く挫折してしまう生徒が多い教科とも言われていますが、3Dにすることでより生徒の興味喚起を引き出し、学びを没入型にすることで習得を効果的に促します。こちらはVR中級〜上級レベルの先生向け対象かもしれません。

– Zspace

  • 教科:主に生物などSTEM教科に特化、”バーチャル実験室”で生徒のグループワークも図る
  • 特徴:”バーチャル実験室”を学校に丸ごと設置 /ホログラフィックの深い本格没入学習 / 各アクティビティプラン、スタンダードに準拠したカリキュラムの充実

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Zspaceはシリコンバレーに拠点を持つ、2007年に設立された3Dの技術、開発力に誇る会社です。(関係者によると、軍事の技術提供していたバックグラウンドも持っているとのこと。)

K-12(小学〜高校)向けに特化した”バーチャル実験室”をまるごと学校に設置するサービスを展開します。この専用のディスプレイ、コンピューターのセットを使い、3Dメガネと専用のペンと一緒に使いながら、ホログラフィックなオブジェクトを扱い、生物の解剖実験で一つ一つの臓器の皮をはがしていったり、生きたままのカエルの心臓を取り出したり、車のエンジンの仕組みの細部を組み立て実験するなど、現実の世界では生徒が到底経験できないような(危険を伴うような)専門的な実験をバーチャルでハンズオンで取り組めます。このリアルなクオリティは各種メディアで取り上げらるなど注目を浴びています。

先生が導入しやすいよう、全米・各州のスタンダードと準拠した授業プランとアクティビティ(学年別・教科別)も用意されます。これによって、すでに授業で取り扱う内容のある部分をこのバーチャル実験室に置き換える、という形が取れます。

生徒同士でバーチャルでグループワークも可能となっているところが、一人の世界に没頭しがちの他のVRコンテンツと差別化できるポイントでしょう。1台のコンピューターで2,3人の生徒が一緒に取り組めるような仕様です。

すでに全米で約100の学区がZspaceの”バーチャル実験室”を設置済みで、全米教育コンファレンスISTEにも出展し全米の先生の注目を引きつけるばかりでなく、アメリカ国外でも導入する学校が出てきているとのこと。

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ISTEコンファレンスで展示、デモが行われていたZspaceの専用ラボデバイス

Zspaceはクオリティの高い、本格没入次世代型学習を提案していますが、専用バーチャル実験室を丸ごと設置となると予算面のハードルが大きいでしょう。1つのラボで13のコンピューターセットと先生用のプロジェクターが含まれ値段は7万ドル(約700万円)とのことです。但し学区の契約内容によって価格は変動していくとのこと。

– Lifeliqe

  • 教科:主にSTEM教科 (生物/植物/地理/物理/幾何学)
  • 特徴:有名大学との教育コンテンツ共同開発 / タブレットでインタラクティブな操作可能

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Lifeliqeは、サンフランシスコ発の若いスタートアップの会社です。今年、VRハードウェア・プラットフォームのHTC Viveのオフィシャル教育コンテンツパートナーとして提携を発表しました。

STEM教育分野のバーチャルコンテンツに特化しスタンフォード大学など有名研究機関と共同開発し、クオリティの高い教材コンテンツ作りを目指します。生物、物理、幾何学などの教科ですでに1,000以上のインタラクティブなモデルがあります。

直感的な操作を通して、生物の細かい詳細まで見たり、AR (Augmented Reality 拡張現実)でオブジェクトとインタラクティブなやりとりを通し生徒が積極的に学ぶ体験をひきだすことを目的としています。(擬似実験など)

タブレットでの使用もできるので、Zspaceと比べ比較的安価に導入が可能ともいえそうです。

現在は無償トライアルを提供しており、学校への販売導入はおそらくこれから本格的に開始していくという段階ですが、ハードウェアのHTC Viveの提携がLifeliqeの成長をどのように促進していくのか動向が楽しみです。

すでに始まってきている企業と学校の連携

以上、前編では今のアメリカ教育現場のVR/ARに対する反応をお伝えし、今回の投稿では注目企業の取り組みも見てきました。

アメリカの教育現場では、まだVR/ARを活用する学校はかなりの少数派ですが、すでに先進的な学区ではバーチャルトリップやSTEM教科関連のコンテンツをカリキュラムに反映し活用され始めています。企業側も学校側に使ってもらえるようなサービス提供を展開しており、企業と学校が連携し始め、VR/ARの教育分野のマーケットを共に創り上げてきていることがわかってきたと思います。

日本と異なり、アメリカでは公立学校は各学区ごとに教材購入の意思決定をするシステムを取ります。今は、VR/ARに関心の高い学区が企業と連携し助成金を得るなどし購入し導入している状況といえるでしょう。企業もアンテナの高い学区へアプローチしていく動きが盛んです。そこでいずれ徐々にツールが活用され始め、生徒の学習効果がどのツールが最適なのか、と先生からの評判が良いツールが勝ち抜いていく、と予想されます。(これはVR/ARに限らず一般的なEdTechツールにも当てはまるといえるでしょう。)

今後さらに充実したコンテンツが出てくることは間違いないので、動向を今後もアップデートしていきたいと思います。

VR教育分野への応用-アメリカ教育現場今の反応編

VR教育分野への応用-次編

前回、VR教育分野への応用というテーマで記事を投稿し、VR/AR技術を教育分野へ展開していくことについては、学習者の誰を対象とし、学習体験をしっかりデザインしていくかが重要であるとお伝えしました。

特に、教育現場の先生に実際に学校で活用されるようには、世界で最も忙しい職業といわれる先生の時間を節約することができるのか、今まで実現出来なかった学習体験の質を上げていけるのかが大事なポイントとなります。

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VR/AR アメリカの一部の学校へ活用され始める

まだVR/ARを活用する学校はアメリカではかなりの少数派ですが、すでに先進的な学区ではバーチャルトリップやSTEM教科関連のコンテンツをカリキュラムに反映し活用され始めていていることを最近知りました。

そこで今回の記事では、今のアメリカ教育現場で導入されている”VR教育応用事例”をアップデートしたく、主に下記2つの投稿に分けて紹介していきます。

  1. アメリカの先生たちのVRに対する今の反応。(※今回紹介)
  2. 先生たちの支持を上手に獲得する注目VR/AR教育企業。(※次回紹介)

アメリカの先生たちのVRに対する今の反応:

アメリカの先生の60%が”VRを教室に導入したい”と回答 / そのうち2%の先生が実際に導入済み

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VRハードウェア”Gear”を開発するSamsung社が行った独自調査によると、教育現場から特に先生からのニーズが着実にでてきていると言われています。(参考記事

  • アメリカの小学〜高校の先生1,000人のうち60%がVRを教室で導入したいと回答
  • 現状ではそのうちの2%の先生が実際に導入済みという結果。
  • 生徒自身にVRコンテンツを作らせたいという関心も高まってきてる

この調査の対象となった先生1,000人がどの程度のテクノロジーの習熟度があるかということは不明ですが、半分以上の先生がVR導入について前向きに検討したいという回答です。

2%の先生がすでに導入済みということですがこのVRが、どこまで本格的に作り込まれたコンテンツを教材として導入しているのか、というところも厳密に定義はされていません。(例:マルチデバイス対応の3Dコンテンツなども含まれる場合もある。)

また、生徒にVRコンテンツ制作をさせたいという関心については、最近、Unityなどプログラミング言語を使ってVRゲームコンテンツ制作を子供向けに教える課外授業コースも出てきているなど、エンターテイメントのコンテンツで世の中で3Dが続々と出てきている中、生徒が日常的に触れ合う機会が増えてくるので、VRコンテンツに学校でも触れ合えるようにしたいという関心も出てきているのでしょう。

VR導入している先生の事例:

ここで、すでにVRコンテンツを学校の授業に導入している先生の例をご紹介したいと思います。

今年6月、デンバーで開催された、全米最大教育者コンファレンスである、ISTEで出会ったテキサス州の中学校で教壇に立つJaime先生です。(※さきほどの調査で2%の先生が導入済みという結果だったので出会うことができ貴重な存在です。)(※ISTE参加レポートはこちら

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ポスターセッションで来場者にプレゼンするJaime先生

Jaime先生は、コンファレンス当日のポスターセッションで、”VRの教室での導入例”というテーマでご自身のベストプラクティスを紹介されていました。彼女の授業では、VR教材コンテンツを自然機構や歴史建造物などのバーチャルトリップ(バーチャルな社会科見学)のものを使用しているとのことです。

このバーチャルトリップのコンテンツを通して、テキサスの教室にいながら中国の万里の長城などの歴史的跡地に行けたり、雪を見たことがない生徒にとって雪山や氷山という自然気候を体験することができます。

Jaime先生によると、生徒たちは教科書を読むよりも3Dコンテンツの没入体験をしたほうがより好奇心を持ってやる気のある姿勢を見せる、とお話していました。実際の目で見ることに価値があるような社会科見学を教室で手軽にできるということは大きなメリットのようです。

 

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今の時点では、バーチャルトリップがVRを使った上で学習効果がわかりやすい

Jaime先生は今はまだバーチャルトリップのコンテンツをメインに授業に取り入れていますが、今後もっと別の科目でも応用できないか模索していきたいとコメントしていました。

今の時点では、このバーチャルトリップが教育現場で現実的に導入する上で、一番効果が見えるし生徒の反応がわかりやすい。これからもっと多様なコンテンツが出てきてくれることを楽しみにしている。

現時点で学校の先生にとってもVRを使った授業の例で効果がわかりやすく、生徒の反応や学習効果が見えやすいという点で、「バーチャルトリップ」のコンテンツはVR初心者〜中級の先生の入門教科といえそうです。

VR/AR教材導入の課題

しかしながら、Jaime先生のように最新テクノロジーを教室で導入するのは、至難の技といえるでしょう。アメリカの先生の中でも意識の高い先生が頑張らないといけないという状況で、まだ難易度が高いです。ISTEに参加した先生達も、うちの学校にもVR教材を導入したいけれども、ハードルが高くて今はまだ無理かな、と言っている方が多くいらっしゃいました。

そこで、今のアメリカの教育現場でVR/AR教材を学校へ導入するにあたっての課題を以下にヒアリングのもとまとめてみました。学区や学校が導入承認をするにあたって、下記の課題をクリアしているかどうかがポイントとなりそうです。

– 課題1:予算獲得のハードル

Jaime先生は、予算にシビアな学区を説得しなんとか承認をこぎつけて契約購入ができた、と苦労話を語っていらっしゃいました。

日本と異なり、アメリカでは公立学校は各学区ごとに教材購入の意思決定をするシステムを取ります。学区の予算の承認については、まだ必修科目が優先されている現状とのこと。VRを活用した授業は、まだNice to have (あったら良いな、という程度で必須ではない。)という程度のものなので、どうしても優先順位としては下にきてしまいます。

Jaime先生が使うVRコンテンツは、Nearpod社が提供するもので、単体コンテンツが3ドル以下など、比較的安価で購入ができ、月額プランもあるとのこと。学校や学区特別割引なども用意しているそうです。Screen Shot 2016-09-04 at 7.31.12 AM

ゴールドマンサックスによるVR/ARについての産業サマリーデータによると、VRコンテンツの教育にあてられる費用は、2025年までに年間1人生徒あたり50ドルが支払われると予測が出ています。(現在では学校が負担する教材費用年間1人生徒あたり平均ドル244ドル

– 課題2:現カリキュラムに置き換えられるかどうか

先生達は日々の授業進行とカリキュラムに沿って生徒の査定をしていかなければいけません。VRを授業に取り入れるためだけに、現カリキュラムと関係のない内容を取り扱わなければならない、またはその授業を実施するためだけに様々な準備と研究に時間を費やさなければならないとなったら本末転倒です。

今の段階では、現カリキュラムの中で、この内容を3Dで行ったら効果があるのではないか、という所を部分的に取り入れることが肝となってきそうです。

VR/AR教育企業にもこういったカリキュラムやレッスンプランの活用例を用意されているかどうか、が先生が期待するポイントとなりそうです。

– 課題3:先生が使いこなせること

VR/ARのツールを導入し、実際にそれを使用し授業のファシリテート運営をしていく先生が使えないとなると本末転倒です。先生が導入しやすいわかりやすい操作が可能かどうか、先生のトレーニング内容が充実しているかどうか、がポイントとなりそうです。

学校と密着するVR/AR教育企業の存在

以上、VR/AR教材の学校への導入にあたっての課題を見てきました。

VR/AR教材を学校に導入してもらえるよう営業をかける側の立場に置かれる企業にとっては、学区に予算承認が下りやすい価格プランや現カリキュラムに沿った教材パッケージ、先生用トレーニングのサポートなど、先生から支持を得るために様々な工夫をする必要が出てくるでしょう。

そこで、次回の投稿ではこの分野で着実に評判を上げている注目企業を紹介したいと思います。

 

 

全米最大教育テクノロジーコンファレンスISTE – アメリカ先生たちの力強い草の根活動 –

全米最大K-12(小〜高校)教育コンファレンスISTE 2016に参加

6月26日〜29日にコロラド州デンバーで開催されたInternational Society for Technology Educators conference (ISTE)コンファレンス に参加してきました。

ISTEは、教育テクノロジーに関するスタンダード制定やコンファレンス開催、先生達のトレーニングや横のつながりのコミュニティ場作りをしている団体です。

ISTEは年に一度、全米の各都市でコンファレンスを開催しています。

コンファレンスでは、主に小学校〜高校まで (K-12向け)の教育者、EdTech企業、教育プロフェッショナル達を参加対象としてます。

そこで、最先端教育テクノロジー動向、教育事例共有や教育者向けのトレーニングだけではなく横のつながりの情報交換の場を提供しています。

3月に開催されるオースティンのSXSWeduも教育テクノロジー祭典としては最大級ですが、(SXSWedu参加記事)ISTEは、参加者の小学校~高校の先生によりフォーカスし、参加者主体のセッションが多く、議論の内容も実際の授業の運営方法にフォーカスされているという印象を持ちました。

今回のISTEでは、全米、海外から合わせ1万6千人以上の参加者、企業は500社以上出展、セッションは4日間で1,000以上。この規模感と情報量の豊富さはK-12(小〜高校)教育業界世界最大級といっても過言ではないでしょう。

参加者は、関心のあるトピックに沿って、各個人でセッションやブース訪問のスケジュールを管理できます。参加者向けのモバイルアプリも用意されていて便利です。

しかし全て興味あるセッションを限られた時間で制覇するのは不可能で、私自身も分刻みで会場内をバタバタ移動する4日間でした。

アメリカ先生たちの力強い草の根活動とアメリカの教育現場のいま

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この4日間で一番印象に残ったことは、何よりも、アメリカ全土から集まった先生達の草の根活動にかける情熱に圧倒され刺激を受けたことでした。そこでは、学校の先生達が自らのベストプラクティスを他の先生たちに共有する会が多く開催されていました。

EdTechツールやSTEM (サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、算数)教育やプログラミング教育といったまだ完全にはガイドラインや正解は出ていない、比較的新しい分野をどう教育現場に導入していくか、というトピックが多かったです。

先生ならではの視点で現場での苦労話などリアルな教育現場が垣間見れ、私自身にとって興味深い内容ばかりでした。

また、ISTEの参加者の大多数は全米各地の公立学校の学区や私立学校から代表として参加している先生たちです。学校内でのテクノロジーやサイエンス教科の担当や事務局員、テクノロジー教材の購買を管理する担当の方がメインで、年齢としては40代〜50代の先生たちの比率が多い印象を持ちました。

普段私はテクノロジー導入した事例が全米で最も盛んであると言われているカリフォルニア州シリコンバレーの地域を拠点に活動しているのでやはり偏った見方をしてしまいますが、このようなアメリカ全土を対象とした先生向けのコンファレンスに参加し、アメリカ全国レベルの教育現場でどういった議論がされているのか、ということがわかってきました。

今回私は日系企業現地特派員としてアメリカ市場をリサーチしている立場として、主にSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、算数)教育関連のトピックを中心に各セッションに参加してきました。

アメリカ教育現場のいま(特にSTEM教育分野)stock-vector-illustration-of-stem-education-word-typography-design-in-orange-theme-with-icon-ornament-elements-379502056

そこで、アメリカ教育現場のいまを表すキーワードとして大まかに下記2つがわかってきました。

1) 2016年の今はEdTechツールも浸透していき、STEM教育は中間マジョリティ層へ広がっていくフェーズ。”STEM Learning for ALL”.

  • 都市部だけでなく、全米の地域へ。
    • 「田舎の中高年の先生も教えられるようにしましょう。」
  • 一部のGifted(成績優秀な生徒)だけでなく生徒全員へ。
    • 「女子やマイノリティもSTEM教育に触れさせる機会を。」
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STEM系ワークショップ教室代表の方の発表。「STEM教育はマジョリティ層に移行する段階」

 

2) STEM教育に「実生活の問題解決の要素」を取り入れて生徒の学びの目的意識と継続を

  • ツールの充実よりも授業中身の質を高めていきましょう。
    • 実生活と結びつけた問題解決型授業、生徒と協働できるプロジェクトの導入など
  • プログラミング/エンジニアリングは実生活あらゆる問題を解決するツールと教える
    • 子どもたち(特に小・中学生)に実践を通して理解してもらう。テック系分野に関わらずあらゆる世の中の仕組みにSTEMは応用できることを理解してもらう。
  •  個人それぞれのペースで、目的をもって取り組めるようサポート
    • それぞれ学び方は違う。生徒に合ったメンタリングを。

 

4日間で見てきたハイライトしたいところを下記にシェアしたいと思います。

 

<オープニング基調講演 Michio Kaku氏>

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登壇するMichio Kaku氏。ISTE初日のオープニング基調講演。

物理学者でありFuturistとして著名なMichio Kaku氏による基調講演。テーマは、”The Internet Will Be Everywhere and Nowhere” . 今から50年後、テクノロジーは人間の生活と社会のあらゆる側面を一変させているだろう。主に、この50年間で起こる進化は、1) 情報のデジタル化、2) Machine Learning (機械学習、人間の学習能力と同様の機能をコンピュータで実現しようとする技術)、3) 医療分野で起こっていく。

1)情報のデジタル化では、あらゆる日常のものがデータ化される。例えば、衣服、乗り物、薬、さらにはトイレまでもがデータを集め、人間に共有され、自動でその人の体調状態など分析される。スマートコンタクトレンズをしてまばたきするだけで情報を読み取れてしまうようになるかもしれない。

2) Machine Learning では、技術の進化を結びつき、今人類が必要とされているタスクのある部分をコンピューターが担っていくこと。”Robo-Doc (ロボットドクター) ”が体をスキャンしてクイック診断をしたり、”Robo-lawyers (ロボット弁護士)” もクイック診断をクライアントに提供できることになるかもしれない。

3) 医療分野では、3Dプリンター臓器を作り出したり、オペをする医者要らずの手術マシーンが進化するかもしれない。加えて、どれだけ脳科学もさらに進化していくこと。

最後に、Kaku氏は今の世の中から激変する50年後の未来の世界に生きていく子どもたちを育てていく立場である教育者へのメッセージとして「50年後でも存在する職業に就けるような育成をしていくこと」 を提案しました。

将来のJob Marketは特にParalegal (弁護士のアシスタント業務)のような中間層の仕事は徐々に無くなり変化していく。Kaku氏は暗記中心の授業スタイルから、「コンセプトや原理を考えさせること」 に重きを置くべきと提案します。自動化に置き換えられない職業は、よりクリエイティビティさや経験が必要とされていくからです。

また、MOOCsや学習コンテンツが普及し、誰でもどこでも学べる世の中になっていく上で、メンターの存在、他の生徒との恊働は常に必要となってくること。特に先生は「生徒のメンター」としての役割に変化すべきだ、と強調し講演を締めくくりました。

<ポスターセッション>

ポスターセッションは特に先生の草の根活動が活発な場でした。

全米にある学校の団体から、自らのベストプラクティスを紹介していくブースです。毎回テーマが決められ、テーブルに各団体(主に先生自ら)が展示をし直接訪問者に対して説明をしたり相互にやりとりする場です。

下記の教育テーマのセッションなどがあり、全米各地(メキシコなど海外からの出展もあり)から毎テーマざっと40団体ほど出展がありました。

Global教育 / STEM教育 / Project (Problem) based learning (プロジェクト主体型授業、問題型ベース授業) / Digital Literacy など

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ポスターセッションの様子。(Google Classroomの活用方法について事例シェア)参加者は、各ブースにいつでも訪れ、他のブースへ移ることができる。

ポスターセッション全体を通して、新しい分野の教育テーマについて、現場で試行錯誤をしながら成功や失敗談がフランクな形でシェアされているのを見てきました。

訪問者との垣根は低く関心の内容が似ていたら、コラボレーションしましょうか、という話がどんどん進んでいました。実際に私もここに出ていたいくつか学校/アフタースクールの団体さんと連絡先を交換し情報交換をさせていただいています。

下記、全体を通したポスターセッションで、印象を受けたトレンドの傾向です。

  • 問題解決 × STEM教育

STEM教育を実生活の問題解決と結びつけて学ぶ教育事例が多く出展されていました。生徒に身近な問題を考えさせ解決に導く過程で、ツールとして電子工作やプログラミングを取り入れて学んでいくというアプローチをとります。

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探求型STEM workshopをプロデュースする「School STEAM Fest」

 

例えば、下の動画のように、身近な困った人のために役に立つものをつくるプロジェクトを中学生が行う事例が紹介されています。(生徒のユーモアに溢れた動画でとっても可愛いです。)

  • 目が見えない人のために箱の自動Opener
  • Arduino(電子回路)でつくったロッカーのOpener
  • LittleBits (電子工作キット)でつくった耳が聞こえない人向けのドアベル通知器

実生活の中にある問題と絡ませて問題意識を持たせると、学びの吸収の質や継続の姿勢も変わってくること。また他の生徒とコラボレートし、サポートし合いながらグループで取り組むことも重要な要素と言われていました。

  • Computational thinking(コンピューター思考力)の習得サポート

Codingを暗記するだけでなく、プログラミング学習の上でコアとなってくるコンピューター思考力をビジュアル、手を実際に動かすことで習得をサポートするツールなども登場してきました。

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幼児〜低学年向けComputational thinkingツール「Cubetto」のデモ。ブロックCodingを通し触りながら思考法の基礎を学ぶ。宇宙の絵のボードでStorytelling(物語)ツールとしても活用可能。

アメリカ国内でも日本で議論がされているように思考力の重要性が指摘されています。CSTA (Computer Science Teacher’s Association)でもComputational thinkingのカリキュラムやガイドラインが制定されています。今回のポスターセッションではComputational thinkingの習得をサポートする団体も多く出展していました。

  • 女子 × STEM教育

女子生徒がSTEM分野で活躍しているベストプラクティスも多く共有されていました。人口の半分を占める女性のSTEM系職種に就く比率が低くSTEM領域におけるジェンダーギャップは問題となっており、女子生徒をSTEM分野に関心を持たせる、ということは教育テーマで重要な位置を占めます。

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STEM girl clubに所属してる女生徒自らLEGO mindstormを使った作品のデモ。

ファシリテーターである先生に、女子をもっとSTEMに巻き込むコツは?と直接質問したところ、

  • 生徒の性別だけで偏見を持たず個人の関心を伸ばしてあげる努力をしているとのこと。
  • Techのスキルを持って活躍している大人の女性ロールモデルをゲストに呼んでテクノロジーのスキルが将来の職業へつながるイメージを持たせる
  • 女子が興味を持ちやすい、裁縫や編み物をとっかかりとしSTEAM教育へ発展させることもやっていきたいとのこと。

<Playground>

PlaygroundはRoboticsやMakerなどを実際にハンズオンなデモを行い実際の手で試せる場です。地域コミュニティの教室が生徒にどういったワークショップを展開しているのか、実際にそこに通っている生徒たちもブースに立ち、参加者へ紹介していたことが頼もしかったです。

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ロボットクラブの紹介。球体ロボットのSpheroやCubeletsを使ったデモ紹介。
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Makey MakeyとScratchを活用したGame紹介する生徒たち。面白いアドベンチャーゲームでした。

その他ロボットレースのデモなども賑わっていました。

 

<先生による先生のためのレクチャー>

こちらのセッションは、先生が先生のために情報共有をする講義の形式をとります。活発に質問も飛び交いインタラクティブで有意義でした。下記、特に最も印象に残ったレクチャーです。

  • 「Making STEM real difference」Chris Craft氏(サウスカロライナ州の教育者、研究者)

テーマは、「STEM教育を本当に効果ある授業にするには?」という題でのレクチャーでした。Chris氏は数々のAwardを取得しテクノロジーを活用したイノベーティブな教育を行っていることで全米レベルでも影響力のある先生です。

Chris氏は、冒頭をこのようにスタートします。

STEM教育はアメリカ教育現場の中でも重要性の認知もされてきて、たくさんの学区や学校がSTEM教育を行うために必要なツール(タブレットやプログラミングロボット、電子工作キットや3Dプリンターなど)を購入して導入する学校が増えてきている。Maker Space(メイカースペース:電子工作やモノ作り専用の部屋。生徒が自由に工作に励める場)を設置する学校も増えてきている。(当日会場内の3〜4割ほどの先生が自分の学校にMaker Spaceがあると回答。)

しかし、徐々にSTEM教育を行うためのツールやハード面での環境は学校で整ってきているものの、それを実際に活用されているところはまだ少ない。3D プリンターを導入したものの、使う目的がしっかりしていなかったら使われないままになってしまう。

Chris氏の教育ポリシーとして、子供たちに「将来何になりたいの?」と聞くのではなく、「将来あなたはどんな問題を解決したいの?」と問いかけていくことをモットーとしているということです。(Google Chief Education エバンジェリストのJaime Casap氏も同様に主張と言及。)何になりたいの?と問いかける時点で子どもは自立性を失ってしまう。どこに問題があってどう解決したいのか、自立的に考えられる子どもを育成していきたい。

そこで授業をProblem-based(問題解決型)のスタイルを導入しているとのことです。

子どもは、自分のためだけでなく、「人のために考え」役立とうとすることで圧倒的にSTEMの学びの質に変化がでるということが彼の教師経験から出てきた事実とのことです。そこで実生活やSocial Justice(社会貢献)に役立つ解決策に取り組むプロジェクトを生徒主体で発足させています。

いくつかChris氏から生徒のプロジェクトの紹介がされました。

その中で最もアクティブなプロジェクトが、「Prosthetic Kids Hand Challenge」(義手をつくるチャレンジ)です。

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プロジェクトURL: http://www.handchallenge.com/

もともとは、女子生徒の友達グループが左手に障害を持った友達が教科書を持てるようにするため、3Dプリンターで義手をつくったことから始まりました。

2015年10月、これをさらに世界にいる手の不自由な子どもに義手を届けるプロジェクトとして公募の制作を開始しました。このページで義手の作り方をレクチャーし、各クラスで制作を募集しています。現在では200以上のクラス、21カ国から参加があるとのことです。

MicrosoftやNASAなど企業のスポンサーも受け、より広い地域のレベルで参加ができるようになっています。日本からも参加者がいるとのことです。

このプロジェクトを通して、義手を受け取り喜ぶ子どもも増え、学校内クラスで3Dプリンターを活用することに大きな目的を見出せ生徒が主体的にモノ作りに励む学校も出てくるとの双方で良い効果が生まれます。

最後にChris氏はこのHand Challengeの参加を会場で呼びかけると、当日の会場内の参加者からたくさんのポジティブな感想がシェアされていました。

「Makerspaceを導入して3Dプリンターも学校で購入したけれども、活用方法がわからなくて困っていた。でもこのイニシアティブがあったら、生徒と一緒にすぐこれに取り組めて目的意識ができる。」とコメントした参加者の先生もいました。

日本からも参加ができるのでご興味ある団体はSign upいただけたらと思います。

URL: http://www.handchallenge.com/

 

<Expo 企業ブース>

Microsoft, Googleなどの大企業から、EdTech企業やNPOなど様々な団体が新しい教育テクノロジーサービスやプロダクトを展示しました。

特に、今回のISTE開催に合わせて大手各社EdTech商品リリースのアナウンスで賑わっていました。

  • Google blok project https://projectbloks.withgoogle.com/
  • Google VR教育Expeditionコンテンツ https://www.google.com/edu/expeditions/#about
  • Amazon inspire (AmazonのOpen Educational Resource) https://www.amazoninspire.com/access

※商品情報については次以降の記事でご紹介したいと思います。

 

<最後に>

「いま」ではまだなかなか難しいかもしれませんが、

長期的には、Michio Kaku氏の基調講演であったように先生の役割は「メンター」として生徒個人の問題解決の学びをサポートし、クリエイティビティを引き出すことが求められていく。

アメリカの教育現場のいまはそこにTransform(変化し対応していく)する方向へ動いていこうとしているのだな、とみえてきました。

従来型の指導方法に慣れていたであろう40~50代の年齢の先生たちが、未来を見据えて積極的に新しい教育アプローチ方法を取り入れようと努力する姿勢がありました。まだ正解はわからないけれども、教育現場で試行錯誤をし新しい形を模索していく、力強い草の根活動が展開されています。

そして、一緒にチャレンジをする先生同士の横のつながりの結束もとても強いことがわかりました。良いアイディアを持っている者同士だったら、一緒にコラボレーションしてみようか、という話がどんどん起こっていました。今回ISTEに参加できなかった先生同士でもTwitter チャットで#NotAtISTE16 のハッシュタグを通じて、情報交換をしていくプラットフォームができていたことも驚きでした。

試行錯誤を通し、一緒にチャレンジする者同士Peer-to-peerのつながりを強固にする。

ISTEにはアメリカならではの新しいチャレンジを行いチャレンジする人を応援する仕組み作りのエッセンスが盛り込まれている、と思えてなりませんでした。

Most Likely To Succeedを観て

Most Likely To Succeed  21世紀の学校教育のあり方を問う映画

先日、サンフランシスコベイエリアで開催された、先進教育に携わる教育者向けのワークショップに参加してきました。

そこでは、”Most Likely To Succeed“というアメリカ教育ドキュメンタリー映画を観たのち、参加者それぞれのリフレクションを行い、自分たちがアクションとして何ができるのかディスカッションをしてきました。アメリカの教育者がみんなどう考えているのか、よく分かり私に取っても大変有意義な会でした

Most Likely To Succeed“は、一般上映はされていなく各地域コミュニティによる自主的な上映会のみ限定して公開される映画です。各著名教育者からも高く評価され2015年は様々な賞を獲得していて全米教育界の中で大きな影響を残しました。

従来型の暗記中心、テスト漬けで集団型マス教育から脱却し、21世紀のいまは、「構成主義(Constructivism ピアジェによる)」具体的な教えを強制しない学習理論が見直されています。(詳細についてはWikipediaがでています。)

構成主義はほとんどの場合、子供中心、オープン・エンド、プロジェクトベース、問題ベースといったものの教え方のモデルに関連付けられています。学習者を注目の中心に置いた指導法といえます。

この「構成主義」を取り入れた21世紀型の先進的な学校がアメリカでは増えてきています。(具体的な先進的な学校例についてはAltschoolなども代表例となります。こちら以前の記事でアップしてます。Altschool 未来形の学校となるか

この映画のすごいところは、そんな”先進的な”学校に取材をし続け、そこに通う生徒や保護者のリアルな心情を描いているところにあると思いました。

正直なところ構成主義の教育で子供は伸び伸び学べるかもしれないが、実際のところは保護者はテストから離れたことによる大学入試に直結しないことへの不安やジレンマを抱えていることを様々な角度から描写しています。

既存の教育システムから脱却し、21世紀型教育、伸び伸びと生徒中心の学習スタイルを進める構成主義の教育方針が次世代の教育の姿だ、と言われてきたものの、やはり既存の教育システムから完全に抜け切ることができない、といった現在のアメリカの教育が抱えるリアルなジレンマを描いています。

アメリカ教育の中でも、まだまだ正解は解明されていなく、アメリカの選ばれた環境にいる生徒や保護者、教育者でさえも、まだ手探りを続けているのだということが再認識できました。

下記、ざっとドキュメンタリーのあらすじをダイジェストで書きます。ポイントとしては下記の内容になります。

  • 100年以上変わっていない20世紀の知識習得偏重の教育から脱却せねば
  • 構成主義取り入れた学生主体のプロジェクトベースの21世紀型の授業スタイルを導入してこう
  • 大学は名のあるところに進学するため、やはり既存の大学入試システムに則った学力つけて欲しい

⇨ 結局のところ21世紀型の新しい教育方針を取り入れた所で完全に既存の教育システムから脱却ができないジレンマ

100年以上変わっていない20世紀の知識習得偏重の教育から脱却せねば

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”アメリカの教育システムは、100年以上前に創られたものなのに、今になっても誰もがそれを、学校のあるべき姿だ、というメンタルでいる。”

21世紀の未来を生きる子供たちに、100年前の教育システムを導入したままで、どうやって、将来の経済のイノベーションへ貢献する人材へと育てていけるのだろうか、という矛盾を指摘。

長い間、教育の最大のフォーカスは、知識習得に当てられていた。そしてそれは先生からの教えが唯一の習得方法と思われていた。

これに対して、ハーバード大学イノベーションラボの Tony Wagner氏は、下記のようにコメント。

”今の時代にこんな教育は必要ない。なぜなら、今日では学習コンテンツはユビキタスになり無料でインターネットがつながるデバイスさえあれば誰でもどこからでも知識を得られるようになっているからだ。”

学校で先生から教えられること以外にも様々な情報を習得できる現代の環境(MOOCsやオンライン学習など)で、100年前の学校のシステムのまま、先生の教えのみ聞いていては未来の産業を作っていく人材は絶対の育つわけない、という論点から入っています。

構成主義取り入れた学生主体のプロジェクトベースの21世紀型の授業スタイルを導入してこう

そんな時代遅れの既存の教育システムの脱却案として、構成主義の考えが台頭する。構成主義とは子供中心で、先生の教えは極力抑え、自ら考えさせるプロジェクトベースの授業スタイル。

その方針を全米で先駆けとして導入した、カリフォルニア州サンディエゴにある High Tech High schoolの密着取材が行われる。

この学校は、Qualcomm社のCEOの寄付を中心によって2007年に設立され、教科横断プロジェクトベース型、クリエイティブな問題解決ができる人材育成を主な方針とする。

特にこの学校の感心する点は、

  • 各先生が全ての授業の方針を決め自由にカリキュラムを組めること(テスト実施しなくても良い)
  • テストの代わりにアートの視点や数学的な思考、歴史理解力など総合的に考えさせる生徒同士コラボレーションをしプロジェクトを動かし、生徒たち自身によるプレゼンテーションを評価軸

このようなテストと直結していない授業スタイルをとりつつも、今までに卒業生の98%が大学進学の実績を出し、革新的な教育を実施していても既存の大学入試の学力レベルまで引っ張ってこれている、ということが証明されています。

High Tech High Schoolでは、未来を生き抜く子供たちのために、クリエイティビティとイノベーティブさを身につけるよう様々な工夫がされ、

特にMarkという人文学を専門としたHigh Tech Highの先生は、授業中に生徒に向け、「君たちは手を挙げる癖をつけないといけない」と語りかけ、ソクラテス式の授業を実践。

「他の生徒と互いに話す必要があるのであって、私をいないものとしなさい。自分たちで問題を認識して、考えるのです。いつまでも黒板にいる先生のことばかりみて答えを求める癖を直しなさい」と生徒たちに語りかけます。

大学は名のあるところに進学するため、やはり既存の大学入試システムに則った学力つけて欲しい

このように革新的なHigh Tech Highの教育について評価が高まるにつれ、反対意見も出てきています。

保護者の懸念として、先生の教えは最少限にした中で、テストも行われず、本当にこれで本当に大学入学に必要な学力は身につくのだろうか?特に数学のスキルは大丈夫なのだろうか?

High Tech Highに通う娘をもつ教育熱心な父親Gregの考えとしては、結局のところ、革新的な教育を試みてはいたが、もっとテストをさせ、長い登校日を設けるべきなのではと最近になって巡り巡って考え始めたということです。また、同じように子供を持つ親たちにもGregのように考え続けるJourneyを体験してほしいという願っているとのことです。

子供の未来を気にかけるからこそ悩む保護者たち。そんな彼らのリアルな心情が伝わってきました。

“Most likely to succeed”では、最後にオーディエンスに、このように人間である自分たちが創り上げた教育について現在招いているジレンマ、問題点について考えさせ、最後にこう問いかけます。

”あなたの子供にどんな人になってもらいたいですか?”

アメリカでは教育者、保護者、生徒たちにとって正解の形はまだ分からず、様々な考えを基とした革新的なアプローチが教育現場で展開されて手探りで新しい教育のかたりを模索している状況なのだということがよく分かりました。

映画を観て リフレクション(筆者個人)

上映後は、隣に座っていた、アフタースクールでMaker教育のカリキュラムを作成している若い教育者の女性とお互いの感想をシェアし合いました。

まさに構成主義の教育アプローチを学校が終わった放課後の外の場で推進する彼女ですが、Makingが大学入試に直結するわけではないので、懸念を示すような保護者には、きちんと子供が学んでいる進捗を報告している、など工夫をしているということです。

彼女が現代のアメリカ教育について、指摘していたポイントは、現場で生徒とまさに向き合っているからこそでてくるようなもので、非常に興味深かったです。

  • 子供たちに学ぶ意味、モチベーションを持たせることが最も重要。
  • プロジェクトベースの授業は流行ってきているが、子供たちもお遊び感が出てしまっているから、なぜこのプロジェクトをするのか、何の目的なのかとしっかり理解させるべき。
  • 実際に子供たちに失敗をさせ、そこからまなび再度組み立てるような授業を誘導させてあげるべき

私自身としても、まさに彼女と同感であり、特に自分が何を学びたいかどうして学びたいかと動機付けを導いてあげることが重要だと話が盛り上がりました。

下記の写真は、全くもって分かりづらいと思いますが、私たちがペアとなり、”どんな教育ができるだろう?”について考え、デザイン思考のフレームワークを使って、私たちなりの教育のあるべき姿のプロトタイプのイメージを作りました。

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このプロトタイプのテーマとしては、

  • コミュニティの中で貢献する、ということをモチベーションにもち子供たちに学習する動機付けを導いてあげる
  • 社会の中で共生しながら、多様な人とコラボレーションをしながら学び続けて欲しい

とした願いも込められています。

さいごに、 “Most Likely To Succeed”はコミュニティによる上映会のみ限定で公開、ということを記載しましたが、なんと日本でも上映されることを知りました。(字幕は英語だけになりますが、日本語のあらすじが配布されるそうです。)

下記リンクで6/7と6/18に上映会が東京でFuture Edu Tokyoという団体が企画、開催されているとのことです。ご興味ある方はこの機会に是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

http://mltsshibuya.peatix.com/

VR (Virtual Reality) 教育分野への応用

VRの普及 コンテンツがKey

今年、2016年はVRの発展の年と言われています。

Oculusの発売があり、Playstation VRの発売も予定され、特にゲーム業界にとってはVRゲームの市場が大きく賑わうことが予想されます。自分だけの世界に浸り仮想現実の世界を走り回るのは臨場感あって楽しいに違いありません。

実はゲームなどエンターテイメントの活用以外にも、VR技術が教育、医療分野などへの応用も期待されています。各方面で現在まさにリサーチが展開されていますが、シリコンバレーではアカデミック領域、起業家、ベンチャーが一体となって試行錯誤しながら産業を創っていく動きが活発です。特に、スタートアップ企業がイニシアティブを取り、バーチャルコンテンツ制作のビジネス好機に向け、VR/ARビジネス関係者を集いナレッジ共有やネットワーキングをすることで、業界を活性化させていくムーブメントがあります

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先日、このようなスタートアップ界隈が中心となる、San Francisco市内で開催された、VR / AR技術を教育、医療分野への応用を考えるMeet-up event (エキスパートによるパネルディスカッションがメイン)に参加してきました。

今回のMeet-up eventではLifeliqeというVR専門コンテンツメディア会社と、VR業界情報を発信しコミュニティを創っているUpload社が主催してました。特にLifeliqeは教育に焦点をあててVirtualコンテンツを制作をしています。

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イベントに登壇するパネラーは、教育アクセルレーター関係者他、スタンフォード大学のDr. や医療界、教育界でVirtual Realityの体験デザイン分野のエキスパート、なかにはアップル社でスティーブ・ジョブスのアドバイザーを務め、長年Edtechスタートアップ企業やインキュベーターに新しいLearning体験について顧問を担当している大物(マイケル・カーター氏)も参加していました。

全体的には、具体的にどうビジネスを展開するか、という話の段階にはまだ発展はされておらず、VR/ARの応用のしかたについて必要になる考え方やコンセプトを、共有していたという印象です。

下記パネルディスカッションで議論されていた内容のポイントをまとめました。

VRを使うメリット:

1. 体験をスケールアップできる 2. バーチャルだからこそ質が上がる体験ができる

VRを活用することにより、どういった効果が見込まれるか?今回のパネラーのやりとりでは大きく2つになると解釈しました。

  1. 体験をスケールアップできる(高価な体験や自動化に置き換えられる体験がもっと広く使われる可能性。)
  2. バーチャルだからこそ質が上がる体験ができる(ノートと文字やモニターの二次元を使った学習だけでは習得できなかったような、3D次元だからこそ習得でき学びの質が上がる可能性)

1.スケールアップについては、

人手が足らない現場の中で、バーチャルに置き換えて広く導入していくこと。医療現場では、特に精神病患者など心理療法に使われたり、教育現場では、地方に住む先生が生徒にNew Yorkの美術館や博物館の展示を生で見せてあげたい、でも経済的や物理的には実現難しい、といった場合、バーチャルであたかもその場にいった経験を生徒たちに提供するなど。

2. バーチャルだからこそ質が上がる体験、としては、

VRを使うからこそできる上質体験。例えば、シミュレーションやリアルには危険すぎて体験できないことをバーチャルで体験し学ぶ、といったこと。具体的には、歴史体験学習(バーチャルにその時代に入り込み、歴史重要人物と実際に話すなどし学びを深める新しい学習体験)や天文学の授業など。また、職業訓練について、危険な現場での作業員を対象とした整備士や外科医の訓練などは、VR技術によって、シュミレートしてから現場での作業をするというステップを踏むということが可能になります。

また、今回パネラーから意見として挙がっていたことに、VRでは、Empathy(共感)を誘い、感情を動かすことが可能になるという点。これがパワフルなツールとなるのでは、という話しも出てました。これについては、以前ブログで投稿したVirtual Global Classroomの中でも紹介していましたが、異文化理解教育を、国内に居ながらにして体験し海外の生徒たちと人と人とのコミュニケーションの感情を伝達し、相互理解を深めることにも応用されるかと思います。または幼稚園〜低学年生徒に対して、しつけや道徳面の教育についても応用ができるのではないか、なども具体例として上がっていました。

テクノロジー導入をゴールではなくツールに使用すること

マイケル・カーター氏(元スティーブジョブス顧問)がパネルディスカッション中に発言をしていた内容ですが、

VRテクノロジーを教育現場に登用することになっても、絶対に先生の職業は無くならないということ。この基本は変わらないと力強くコメントしていたことが印象でした。

先生は世界で最も忙しい職業。テクノロジー会社は現場の先生と話し、「5つ」 何が大変か聞き出すべき。それをテクノロジーで解決することに専念をするべきだということ。

VR/ARはその点で、忙しい先生の時間を節約することが可能になるのか、今まで出来なかった学び体験を深めるよう促せるのか、が肝になるとのこと。

VRによる学習体験のデザインが必要

全体的には、教育現場にVR/ARが導入が普及されるのはまだ先の話しではあるものの、まずは部分的に、VRを使って効果的に学べる学習体験から始めて行く(例えばBody Languageを使ったものなど)、特定の学習分野をVRに置き換えていく、ということから始まっていくことになりそうです。

おそらく始めのフェーズは職業訓練の分野から高等教育分野、そこから小中学校への展開、という流れとなっていきそうです。

またVRを使った学習体験によって、

  • 学習者の誰を対象とするのか
  • それによって本質的に何を学ぶことを目的とするのか

といった学習体験デザインが重要となってくることでしょう。

個人的には、バーチャルだからこそ、今までの二次元での学習体験では習得できなかったような上質な体験ができる、ことについて、どのような新しい学習体験のデザインを、各研究機関、企業が創り出していくのか、今後の動向が楽しみです。

さいごに、先月サンディエゴで行われたASU GSV Summit でのビルゲイツの発表を共有したいと思います。

ビルゲイツの教育慈善財団であるThe Bill and Melinda Gates Foundationのイニシアティブの中でバーチャルリアリティのコンテンツデザインに向け本格的に取り組みを開始しているということを発表しました。

http://livestream.com/asugsvsummit/events/5043691/videos/120348577

難民キャンプや発展途上国でVRを使った学習機会の提供を開始しているとのことを発表しています。特に、この発表のなかで、下記のようにコメントしています。

“Virtual reality can make things more engaging,”(バーチャルリアリティが学習体験をもっと興味をそそるものにするだろう)

“There are lots of places where [VR] will play a practical role and hopefully draw people in.” (VRがもっと効率的な役割を果たし、もっと人々を惹きつけるところがあるだろう)

 

ブロックチェーンと教育の未来

今月、3月7日〜10日にかけて、テキサス州オースティンで開催される年に一度の教育とテクノロジーの祭典、 SXSWeduに参加してきました。そこは一般的な教育コンファレンスの概念をまさに超えるといっても過言でない程、先進的なコンファレンスでした。毎日15分〜30分刻みで、異なる会場で数多くのプレゼンやパネルディスカッション、講演や新商品実演が同時並行で行われます。モバイルのアプリケーションで参加者各自が関心のあるテーマに沿って主体的に参加ができるような形を取り、毎年世界中の研究者、学校教育者、Edtech、教育企業関係者、Venture capitalistが揃って参加します。この場で業界関係者が集ってネットワーキングを広げる絶好のチャンスでもあり、毎晩Happy hourや立食パーティーなどソーシャライズするための場も企画されていました。

SXSWeduの会場内の数々のセッションの中で主な教育トレンドとして、「Project based learning(プロジェクトベースとした学習)」、「Personalized Learning(個別最適化学習)」、「21st century skill(21世紀型スキル)」、「Design thinking(デザイン思考)」といったトピックをテーマとしたセッションが目立っていたように思います。個人的には、Virtual Realityをクラスルーム内で使い海外の学生と接続し、異文化理解を体感して学ぶGlobal Exchange Programを斬新な形で提供している教育NPO, Global Nomads Groupなども印象的でしたが、それはまた別の機会に取り上げたいと思います。

さて、本題に移りますが、今回参加したSXSWeduの中で教育の未来を考える上で最も印象的だったセッションが、Jane Mcgonigal氏による基調講演でした。テーマは、’How to think and learn like a futurist’ (フューチャリストとしての思考法と学習法)という興味深いタイトルでした。Jane氏はGame DesignerでありながらFuturistとしても活動しており、日本語にも翻訳されている、幸せな未来は「ゲーム」が創るスーパーベターになろうをこれまでに出版しています。

基調講演はSXSWedu内の最も大きい会場で開催され、Jane氏の陽気で活発な雰囲気の中、刺激的で内容盛りだくさんのあっという間に過ぎた1時間の構成でした。全体の内容としては、まずJane氏より未来を予測するための重要なテクニックのステップ( 1. 未来からのシグナルを集め、2. それらを組み立て、3. 予測を立て 4. 未来について膨大な数の他者たちと遊ぶ、というユニークな4つのステップ)が伝授され、次にその4つのステップを応用し10年以内に最も変化するであろう教育の未来のシナリオを会場で実際に予測していく、というものでした。

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そこでのシナリオは、ビットコインで用いられているブロックチェーン技術を教育に活かした10年後の未来の教育が紹介されました。

私はエンジニアリングの分野に精通していないので詳細な説明はできませんが、ビットコインとは、要約すると、ネットワーク上での電子取引を行う仮想通貨で、中央機関存在なしで、通貨の発行や取引はすべて第三者機関同士のピアツーピア・ネットワーク上で行われています。そしてビットコインのすべての取引履歴はブロックチェーンと呼ばれる「台帳」に記録されます。そこで行われる取引履歴は全て暗号化されセキュリティが守られた環境下となります。Jane氏も、ビットコインについて’The first decentralized digital currency’(最初の非中央集権的デジタル通貨)と述べていました。

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はい、それでは、このブロックチェーン技術が教育に応用されて10年後の未来はどうなるんだろう?という疑問について、Jane氏が実際に予測を立てた未来を紹介していきたいと思います。これらは前述にあったJane氏独自の4つの未来予測ステップに則ったものになります。

まず最初のステップである、1. シグナルを集める ですがJane氏は下記のようにブロックチェーンがもたらす教育への変化を現在のシグナルとして捉えていると述べました。

  • 現在、正式な教育機関で取得できる学位がもっとオープンになった ledger, 「台帳」となるのでは?そうなった場合、従来の「卒業」というコンセプトはなくなるのではないか?
  • 学習体験が通貨のように扱われるのでは?そうなった場合、学習機会や資格を交換し合うためどのような新しい取引を創りだされるのだろう?
  • 完全に教育に対して支払う概念を新たに発案できるのではないか?学ぶことにより所得が得られるということもあり得るのではないだろうか?

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次に、2. シグナルを組み立てる、作業に移ります。そこで現在すでに見えてきているシグナルと重ね合わせ、より教育の未来のイメージに近づいていきます。現在すでに見えてきているシグナルは下記のように述べています。

  • 現在の高等教育を受ける生徒のほとんどは、’Working learners(働きながら学生をする人)’ : 80%の大学(単科大学)学生は仕事についており、40%の学部生はフルタイムで働いている
  • 会社のCEOs(社長)は従業員に週に5〜10時間のオンライン学習を期待している
  • 若者たち(そして倹約家な人たち)は従来の大学教育の存在についてROI(費用対効果)に疑問を持ち始めている
  • Credential-based (資格や学びの証をベースとした)教育のポジション上昇

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そして、いよいよ 3.予測を立てる ステップに移ります。そこでJane氏が予測する未来についてのポイントは下記になります。

  • 学習は、伝統的な教育機関の縛りから解き放たれるだろう。
  • 学習は学校内、学校外、企業内やオンライン学習経験が全てシームレスなネットワークとしてまとめられるライフスタイルとなっていく。
  • 労働と学習はもはや人為的に切り離せなくなる
  • 雇用者はより教育の世界の中でより影響力を持ち責任が大きくなる
  • 教育に対して支払う方法が豊富になる(または報酬として得る方法も)
  • 学習記録を検証していく新たな方法が発明されるであろう
  • “Just-in-time” skill(学習がよりビジネスや産業とつながり実社会に適用していくskill)により注目が集まっていくだろう

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まとめると、学習はより、アクセスしやすくなり、経済的に安価となっていき、より実社会とのつながり、キャリア(お金を稼いでいく)へ直結していく世の中になるのではないか、ということです。

そしてさらにその予測をバーチャルの世界で仮定し具現化していきます。

学習の積み重ねの台帳となる”Edublock”と”Learning is earning”の教育の未来の世界です。以下の動画に全てその世界が紹介されています。ここでのアイディアを私なりの視点で要約すると、従来の学位の代わりとして、オープンなLedger(台帳)が重視される世の中になっていきます。ここで使われるのがEdublockというバッジで獲得したskillを積み重ねていきます。どこの大学を卒業したか、資格を取ったか、という結果よりも、何を継続的に学んでいき、あなた自身何を強みとしているのか、というプロセスが重視されていきます。個人の学習履歴がEdublockに積み重なり、誰もが生徒となり先生となり、かつ学校などの場所にとらわれず学びとその証を記録することができる世界です。学習にコミットするにつれ、Edublockが貯まっていき、より仕事の世界でもフェアな評価につながる、お金を稼いでいくことに直結するというコンセプトです。

 

そこで、最後の15分間はJane氏自らこの基調講演のためだけに用意したWebsiteの未来予測ゲームに参加者がTwitterとWebsiteを通しこのEdublockによる2026年の教育の未来について意見を投げ参加できるバーチャル意見交換セッションのゲームで締めくくりました。

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このEdublockによる教育の未来については、あらゆる角度から一般の参加者から意見が投げられており、見ているだけでも興味深いです。ポジティブな意見から、懐疑的だという意見、誰かがこの仕組みを悪用するのでは、などというネガティブな意見や一歩進んで、自分たちのJob title(肩書き)はどうなっていくんだろう?など多岐に渡っています。

下記がそれらの意見をわかりやすくグラフ化したものになっています。(詳しく見たい方はご参照ください。)http://www.learningisearning2026.org/graph

最後に、Jane氏の1時間にわたるこの未来予測体験はとてもリズミカルで、没入感あって教育の未来について想像力膨らませて考えることができ、参加した身としてはとても楽しめて有意義な経験でした。最後のEdublockの未来についてみんなで意見を投げてゲームをしましょう、という展開には圧巻されました。他の参加者がどういった反応をしているのかがリアルタイムで分かりエキサイティングな体験でした。

Jane氏が予測したブロックチェーンがトレンドとなる2026年の教育の未来について、本当にそんな世界になっているのだろうか?と考えると、個人的にはやはり権威のある大学はこれからも存続していくことに変わりはないとも思います。逆に大学機関はこれらのトレンドに合わせて変わっていくだろうし先進的な大学機関(MIT東京大学など)は既に授業をオンラインコースとしてオープンに開いたりと変革の試みを展開しています。しかし、一部のグローバル企業などでは既に学歴を重視せず、個人が何をテーマに学び続けてきたか、ということを重視して採用する会社なども増えてきていると聞きます。情熱を傾け学び続けてきた人が正当に評価される世の中になる、ということに関しては素晴らしいと思います。Learning is earning 2026のサイトの中に、「個人のニーズに合わせて学習分野を選ぶのを助けるコーチやカウンセラーが必要になってくる」と意見を言っている人もいました。より個人が自分の内から湧き出る関心や情熱に沿って継続的に学び、自身の高みを追求していくことで正当に仕事で評価されることが可能な世の中になったとしたら、今まで人類が経験してこなかった、組織体系にとらわれずに個人の情熱とするものを生き生きと働きながら学習し続け、各々の個性を尊重し合あえる世の中になっていくのかもしれません。まだまだ実現の道のりは長いのかもしれませんが、そう遠くはない未来だと個人的には思います。

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ブロックチェーンの教育への応用は、既にテクノロジー企業であるソニーが進出している分野でもあります。先月発表されたプレスリリース内では、「誰もが簡単に教育を受けられるように、誰もが競い合い、学び合えるように、従来のアプリケーションやサービスの枠組みを超えたグローバル仕様の教育サービスを提供して、新たなインフラを創造すること」とあります。ブロックチェーンが未来の社会インフラに大きな影響を及ぼす重要技術と捉えており、今回開発した技術によるアプリケーションプログラムを、まず2017年中に「世界算数(Global Math Challenge)」をはじめとしたソニーグローバルエデュケーションのサービスに適用し、新たな教育インフラを創り上げていく、とのことです。

新たな教育インフラを創り上げていく、2026年のブロックチェーンがもたらす教育の未来が現実になっていく動きはすでに始まっています。