学校現場と密着 注目VR/AR教育企業
前回の記事では、アメリカ教育現場(学区/学校)でVR/AR教材を導入する上での今の反応と課題点についてお伝えしました。
そこで今回は、学区/学校の先生達からの支持を得ながらも着実に導入事例を増やしている注目VR/AR教育企業、サービスを紹介したいと思います。
今の時点では現カリキュラムの中に埋め込みやすいこともあり、バーチャルトリップ(バーチャル社会科見学)やSTEM (Science, Technology, Engineering, and Math) 教科系コンテンツが中心に、学校現場で導入事例を作っています。
<バーチャルトリップ系コンテンツ提供企業>
– Nearpod
- 教科:360° バーチャルトリップが主。デジタルリテラシーやサイエンスなども充実。
- 特徴:先生向け教材作成、査定ツール充実 / 低価格プラン(学校/学区 1,000ドルよりライセンス購入)
さきほどのJaime先生が活用していると紹介したNearpod社です。低価格プランとバーチャルトリップ系の豊富なコンテンツからVR教材の初心者〜中級レベルの教育コミュニティのプラットフォームを着実に築いています。
先生が自身でVR教材を作り生徒とインタラクティブなやりとりができ、それぞれのコンテンツに授業の目的や先生用の解説も充実しているなど、生徒の学習効果の査定もしやすいツールとなっています。
– Google社 Google Expeditions
- 教科:バーチャルトリップ中心
- 特徴:低価格Cardboard、ネット接続無しでも使用可能
Googleが提供するGoogle Expeditionsは、専用のGoogle Cardboard(20ドル以下で安価)使用、インターネット接続がない場合も専用ルーターでバーチャルトリップを教室で手軽に実現します。
博物館や深水の中、宇宙といった景色に加え、Googleがプロデュースするアートとカルチャーの専門機関Google Cultural Instituteのパートナー提携している世界中の美術館/博物館が協力のもと、詳細に富んだアート作品の教育コンテンツを制作します。
先生のサポートとしては、Google for Education Training CenterでExpeditionの授業プランの例や解説が充実しています。また、他の先生が作ったLesson planもグローバルでオープンでシェアされているなど先生同士の情報交換も可能にしています。
<STEM教育系コンテンツ提供企業>
STEM (Science, Technology, Engineering, and Math) 系や難易度の高い教科の分野を提供する企業も出てきています。特にサイエンスや数学といった分野は、テキスト上では難易度が高く挫折してしまう生徒が多い教科とも言われていますが、3Dにすることでより生徒の興味喚起を引き出し、学びを没入型にすることで習得を効果的に促します。こちらはVR中級〜上級レベルの先生向け対象かもしれません。
– Zspace
- 教科:主に生物などSTEM教科に特化、”バーチャル実験室”で生徒のグループワークも図る
- 特徴:”バーチャル実験室”を学校に丸ごと設置 /ホログラフィックの深い本格没入学習 / 各アクティビティプラン、スタンダードに準拠したカリキュラムの充実
Zspaceはシリコンバレーに拠点を持つ、2007年に設立された3Dの技術、開発力に誇る会社です。(関係者によると、軍事の技術提供していたバックグラウンドも持っているとのこと。)
K-12(小学〜高校)向けに特化した”バーチャル実験室”をまるごと学校に設置するサービスを展開します。この専用のディスプレイ、コンピューターのセットを使い、3Dメガネと専用のペンと一緒に使いながら、ホログラフィックなオブジェクトを扱い、生物の解剖実験で一つ一つの臓器の皮をはがしていったり、生きたままのカエルの心臓を取り出したり、車のエンジンの仕組みの細部を組み立て実験するなど、現実の世界では生徒が到底経験できないような(危険を伴うような)専門的な実験をバーチャルでハンズオンで取り組めます。このリアルなクオリティは各種メディアで取り上げらるなど注目を浴びています。
先生が導入しやすいよう、全米・各州のスタンダードと準拠した授業プランとアクティビティ(学年別・教科別)も用意されます。これによって、すでに授業で取り扱う内容のある部分をこのバーチャル実験室に置き換える、という形が取れます。
生徒同士でバーチャルでグループワークも可能となっているところが、一人の世界に没頭しがちの他のVRコンテンツと差別化できるポイントでしょう。1台のコンピューターで2,3人の生徒が一緒に取り組めるような仕様です。
すでに全米で約100の学区がZspaceの”バーチャル実験室”を設置済みで、全米教育コンファレンスISTEにも出展し全米の先生の注目を引きつけるばかりでなく、アメリカ国外でも導入する学校が出てきているとのこと。

Zspaceはクオリティの高い、本格没入次世代型学習を提案していますが、専用バーチャル実験室を丸ごと設置となると予算面のハードルが大きいでしょう。1つのラボで13のコンピューターセットと先生用のプロジェクターが含まれ値段は7万ドル(約700万円)とのことです。但し学区の契約内容によって価格は変動していくとのこと。
– Lifeliqe
- 教科:主にSTEM教科 (生物/植物/地理/物理/幾何学)
- 特徴:有名大学との教育コンテンツ共同開発 / タブレットでインタラクティブな操作可能
Lifeliqeは、サンフランシスコ発の若いスタートアップの会社です。今年、VRハードウェア・プラットフォームのHTC Viveのオフィシャル教育コンテンツパートナーとして提携を発表しました。
STEM教育分野のバーチャルコンテンツに特化しスタンフォード大学など有名研究機関と共同開発し、クオリティの高い教材コンテンツ作りを目指します。生物、物理、幾何学などの教科ですでに1,000以上のインタラクティブなモデルがあります。
直感的な操作を通して、生物の細かい詳細まで見たり、AR (Augmented Reality 拡張現実)でオブジェクトとインタラクティブなやりとりを通し生徒が積極的に学ぶ体験をひきだすことを目的としています。(擬似実験など)
タブレットでの使用もできるので、Zspaceと比べ比較的安価に導入が可能ともいえそうです。
現在は無償トライアルを提供しており、学校への販売導入はおそらくこれから本格的に開始していくという段階ですが、ハードウェアのHTC Viveの提携がLifeliqeの成長をどのように促進していくのか動向が楽しみです。
すでに始まってきている企業と学校の連携
以上、前編では今のアメリカ教育現場のVR/ARに対する反応をお伝えし、今回の投稿では注目企業の取り組みも見てきました。
アメリカの教育現場では、まだVR/ARを活用する学校はかなりの少数派ですが、すでに先進的な学区ではバーチャルトリップやSTEM教科関連のコンテンツをカリキュラムに反映し活用され始めています。企業側も学校側に使ってもらえるようなサービス提供を展開しており、企業と学校が連携し始め、VR/ARの教育分野のマーケットを共に創り上げてきていることがわかってきたと思います。
日本と異なり、アメリカでは公立学校は各学区ごとに教材購入の意思決定をするシステムを取ります。今は、VR/ARに関心の高い学区が企業と連携し助成金を得るなどし購入し導入している状況といえるでしょう。企業もアンテナの高い学区へアプローチしていく動きが盛んです。そこでいずれ徐々にツールが活用され始め、生徒の学習効果がどのツールが最適なのか、と先生からの評判が良いツールが勝ち抜いていく、と予想されます。(これはVR/ARに限らず一般的なEdTechツールにも当てはまるといえるでしょう。)
今後さらに充実したコンテンツが出てくることは間違いないので、動向を今後もアップデートしていきたいと思います。